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そういうのはちょっと

 俺はヒューズに連れられ、飛空艇のある発着場に戻ってきた。

 そこから見下ろした荒野に、黒い機械の軍列が見える。

 機体から瘴気を立ち上らせ、景色を黒く染め上げる光景には、何か無機質なおぞましさを感じる。


「あれが、ブラッキーか」


 軍列の多くは車両っぽいものだ。いわゆる戦車。

 馬で引くようなものじゃなく。履帯で動く鉄の箱だ。上部に長い砲身を備えているところを見るに、長距離からの砲撃をやってくるだろう。


 兎にも角にも、すごい数だ。千を超えているんじゃないだろうか。

 あんな数の戦車が戦列を引いているなんて、元の世界でも見たことがない。


「どうすんだ? あれ」


「最新の飛空艇を使うんだよ。陸上兵器は、空からの攻撃に手も足も出ないからね。ああやって密集してくれているなら、楽勝さ」


「ほーん」


 見れば、周囲にある発着場から何台もの飛空艇が離陸していた。あれで上空から爆撃するわけか。確かにそれなら安全に敵を殲滅できる。


「僕達も行こう」


「わかった」


 ヒューズが飛空艇のハッチを開く。

 その瞬間、俺は悪寒を覚えた。


「離れろっ!」


 咄嗟にヒューズをマントを引っ張りバックステップ。飛空艇から離れる。

 直後。

 遠方から飛来した光の筋が、目の前の飛空艇を貫通。

 大爆発を起こして、飛空艇はバラバラに砕け散った。

 俺達は発着場の隅まで吹っ飛ばされ、ごろごろと転がる。


「な……これは……」


 ヒューズも驚いている。


「あれを見ろ!」


 俺が指さしたのは空だ。

 ブラッキーが発する瘴気の雲を切り裂いて現れたのは、高速で飛翔する竜の威容。


「エンペラードラゴン……!」


 立ち上がるヒューズ。


「まさか、ブラッキーとモンスターが連携を?」


 現れたのは、一匹だけじゃない。

 暗雲を切り裂いて、次々とエンペラードラゴンが姿を見せる。

 その数は十を超えていた。


 そして、そいつらの口から放たれた光の筋が、飛び立った飛空艇をことごとく撃墜していく。

 それだけに留まらず、エンペラードラゴンのブレスは都市の城壁に並んでいる巨大な機械の球を破壊している。


「まずい。魔導障壁の発生装置がやられた」


 ヒューズはすぐさま発着場から走り去っていく。


「僕は枢機卿に報告する。あなたは今すぐ逃げろ!」


「え」


 一人取り残された俺は、呆然とブラッキーの大群を眺める。


「逃げろっつってもな……」


 そんな中、雪崩のような砲撃が開始された。

 無数のブラッキーから撃ち出された砲弾が周囲に着弾する。

 見る見るうちに崩壊していく都市。遠目に、逃げ惑う人々の姿が見えた。

 このままじゃ、都市の住民達は砲撃に吹き飛ばされたり、瓦礫に押しつぶされたり、エンペラードラゴンのブレスに焼き殺されたりするだろう。


「えらいことになるぞ」


 まぁ、俺に帝国を守る義理はない。こうなってしまったら、どさくさに紛れて帝都に向かった方がいいだろう。

 まったく、帝国を潰す手間が省けてよかったぜ。

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