帝国についた
日付は変わって、未明。
俺とヒューズの乗る飛空艇はヴリキャス帝国に到着していた。
「ついた」
ヒューズの一言。
飛空艇は都市の片隅にある発着場に着陸していた。大きな建物の上に設けられた、ちょうどヘリポートのような場所だ。
というかこの飛空艇とやら、垂直離着陸ができるのか。すごい技術だ。魔法で浮遊しているから、そういうことも可能なんだろうな。揚力だけで上昇するただの飛行機じゃないってことか。
「いいかいロートス? 僕はマッサ・ニャラブに、ジェルドの女王と国交についての交渉に行っていた。王国には寄らなかった。そういうことになっている」
「何回も言わなくてもわかってるって」
いくらイケメンが嫌いといっても、わざわざスパイだとバラすなんてしないよ。
「そんで俺は亜人連邦の使者として帝国に来た。それでいいんだろ?」
「マーベラスだ」
ヒューズは仮面を撫でながら、後部のハッチを開く。
飛空艇から降りた俺達は、塔屋から建物の中に入った。
「『大魔導士』は帝都にいる。帝立聖ファナティック教会。女神信仰の総本山さ」
「女神信仰……帝国は最高神エストを信仰してないのか?」
「ああ。別にエスト信仰が邪道だと言っているわけじゃないんだけど、帝国は国教として女神信仰を掲げている。まぁ、何の女神なのかは誰も知らないし、名前すら明らかになっていないんだけどね」
そりゃそうだ。ファルトゥールは古代人によって封印され、歴史から消滅させられたんだもんな。帝国に残る女神信仰は、その名残なのかもしれない。
でも今、帝国はエンディオーネの手に落ちている。皮肉なもんだ。
「エレノアは教会にいるのか」
こりゃいよいよ、エンディオーネ関与説が濃厚になってきたな。
「朝になったら僕がお仕えしているタシターン枢機卿に会いに行こう」
「え? そんなのどうでもいいから早くエレノアを探しに行きたいんだが」
「だめだよ。あなたは連邦の使者なんだから。こういうのは形式や段取りが大切なのさ。それが筋を通すということだろう?」
「言わんとすることはわかるけどな」
時間がもったいない。
「あなたの目的にとっても必要なことだ。枢機卿の紹介状があれば、帝都の教会にもすんなり入れるだろう。身分を保証するものだと思えばいい」
「なるほど。そりゃ確かに」
猪突猛進的なノリで行ってもトラブルになるだけか。俺にとっちゃはじめての帝国だ。ここはこの国に慣れ親しんだヒューズのアドバイスを聞いた方がいいのかな。
「ひとつ聞かせてくれ。ヒューズ」
「なんだい?」
「お前はどうして俺を助けてくれるんだ?」
マッサ・ニャラブの時もそうだったし、今もそうだ。
「なんでだと思う?」
「考えるのが面倒だから聞いてるんだろうが」
「つれないなぁ」
ヒューズに案内され、俺は広い一室に通される。
どうやら客間のようだ。
ヒューズが椅子に腰を下ろすと、俺はその斜向かいに座る。
「僕のスキルは『アナリティック・プロディクション』っていってね。簡単に言えば、人物の能力を分析するスキルなんだ」
「能力を分析するだと」
戦闘力を測るスカウター的なアレかな。
「だから、僕にはあなたがどれだけ凄いのかが一目でわかった。だから、親交を深めたいと思ったのさ」
「恩を売って味方につけようってか?」
「有体に言えばそうだね。けど、どちらかと言うと、敵に回したくないっていう方が大きいかな」
長い脚を組むヒューズ。
「自分で言うのもなんだけど、僕は相当な愛国者だ。王国の為なら死んでもいいと思っている」
「まぁ、スパイなんかやってる時点でな。よほどのモチベーションがないと無理な役目だろ」
「わかってくれて嬉しいよ」
「けっ」
この後、自分がどれだけ王国を愛しているかを延々と聞かされたが、興味のない俺はあまり聞いていなかった。




