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長話もほどほどに

 まず、ルーチェは自分を指した。


「私。ソルヴェルーチェ・ウル・ダーナがその筆頭です」


 えらく自慢気に言うものだから、思わず拍手をしてしまいそうになる。


「ルーチェがエレノアを支えたのか?」


「そう。世界の修正力で私はエレノアちゃんのメイド長になってたからね。だから、王都が攻め入られた時からずっと行動を共にしていたの」


「じゃあ、ノルデン公国との戦いの時も?」


「うん。戦術を指南したのも私」


「軍師的な?」


「だね」


 ルーチェには神族としての権能がある。戦場を見極めて合理的な判断を下す能力に長けていても不思議じゃない。あるいは、帝国貴族ゆえに敵軍の情報を得る手段があったのかも。

 いずれにしろ、ルーチェは王国の防衛に大きく貢献したのか。

 すごい。


「現場では、アイリスがとんでもなく活躍したんだけどね。正直、アイリスがいなかったら負けてたかも」


 ルーチェが言うと、アイリスは誇るようなこともなく、いつも通りの和やかな笑みを浮かべる。


「わたくしは、ただ役目を果たしただけですわ」


「はは。アイリスに暴れられたんじゃ、敵は手も足も出なかっただろう」


「そんなことありませんわ。単純な力だけでは打開できない状況もありました。メイド長の奇策がなければ、兵力の差を覆すことはできなかったと思います」


「それに、マホさんもいたしね」


 そうか。マホさんもいたなら、戦力としては頼もしい限りだ。

 智勇に優れた従者を従えて、エレノアは英雄になったというわけか。

 やるじゃないか。


「それでね。南北の国境で戦闘が長引いてた頃、突如として現れたモンスター達が、各地の戦場を荒らし始めたの」


「それって、例の……瘴気のやつか?」


 ルーチェは頷く。


「そこからはもうめちゃくちゃになって、戦争どころじゃなくなった。みんな自分の国を守ることに必死で、停戦せざるを得ない状況になったの」


「それでやっと今に至ると」


「そう」


 なんつーか。

 一言で言うと、やばい。

 世界大戦的なものが始まったと思ったら、今度は強力なモンスターが世界を荒らしまわるなんて、絶望もいいところだ。


「みんな、よく無事だったな。本当に」


 まじでそう思う。


「すまん。みんなが大変な時に一緒にいてやれなかった」


「ううん。それはお互い様だよ。私達みんな、ロートスくんのこと忘れちゃってたんだし」


「面目ないのです……」


 ルーチェもサラもしゅんとしてしまう。


 この二年間、俺は元の世界でアカネとよろしくやっていた。確かに漠然とした喪失感はあったが、充実していなかったといえばウソになる。

 みんなほど大変じゃなかった分、後ろめたい気持ちがあるのだ。

 まぁ過ぎたことは仕方ない。これからはみんなの為に俺の命を使えるんだから、今まで以上に頑張るだけだ。


 改めて決意したタイミングで、部屋にノックの音が響いた。


「入るのです」


 サラが言うと、扉が開いて獣人の女性が現れた


「盟主。エカイユの使節団が到着されました」


 俺とルーチェは顔を見合わせる。


「わかったのです。すぐに行くと伝えてください」


「承知しました」


 そう言って、女性は部屋を後にする。


「アイリス。出番が来たのです」


 サラが言うと、アイリスはにこりと微笑んだ。

 アイリスの空色の髪の毛がほんのり光ったかと思うと、そこには大きなネコミミが。いつの間にかお尻に尻尾も生えていた。


「おお。ケモミミアイリスだと? スライムなのにモフモフとはな……これはレアだぞ」


 思わず声に出してしまう。


「では、参りましょう」


 俺の言葉は完全に無視され、アイリスはそのまま部屋を出て行ってしまう。

 なんか悲しい。


「ご主人様。モフモフならボクのを触ればいいのです」


 サラが俺の袖をちょいちょいと引っ張ったので、俺もサラのネコミミをさわさわしておくことにした。


「んっ……」


「あ、すまん。そんなエロい声が出るとは思わなかった」


「……おあずけは辛いのです。でも我慢なのです」


 おお。えらいぞサラ。

 発情しても我慢することは憶えたとは。

 俺も見習わなくては。まじで。


「アニキもアネキも、いちゃついてないでさっさと行こうぜ。アイリスのやつ、もういっちまったよ」


 それまでゴロゴロしていたロロがソファからぴょんと降りて、部屋の扉に手をかける。

 最年少のわりにしっかり者だな。安心した。


 かくして俺達は、エカイユとの決闘に臨むことになった。

 もっと聞きたい話がたくさんあるが、仕方あるまい。


 まずは亜人連邦を一つにまとめる。

 その為に動かないとな。

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