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失われた二年の話をさせてください

 ルーチェは水を呑んで唇を濡らし、言葉を紡ぐ。


「国力が低下した王国に、マッサ・ニャラブは好機とばかりに攻めこんできた。積年の恨みっていうのかな。容赦なかったよ。途中の街を蹂躙しながら、一気に王都まで攻め上がった」


「そいつは、なかなかのピンチだな……」


「マッサ・ニャラブは大軍を率いてきたからね。当時の諸侯達に、それを食い止める力はなかった」


 親コルト派との戦いは、それほどに激しかったってことか。


「けど、結局のところ征服はされなかったんだよな? 王都はブランドンからリッバンループに移ったけど、政権は替わってない。一体どういうことだ?」


 俺の質問に、ルーチェは目を閉じて深く頷いた。


「英雄が現れたの」


「英雄?」


「そう。英雄」


 ふむ。

 あーそういうことか。

 なるほどなるほど。

 だんだん話、読めてきましたわ。


「エレノアだな?」


 俺の答えに、ルーチェはふふっと微笑みを浮かべる。


「そう。『大魔導士』エレノア。新たな護国の英雄。巷じゃ救国の戦乙女なんて囁かれてたり」


「そりゃ大層な二つ名だ」


「エレノアちゃんはね。王都に侵攻してきた敵軍から国王を守ったの。国王と親衛隊を王都から逃がして、大将軍ムッソーと共に最後まで王都に残って徹底抗戦。激しい戦いの末、敵軍を敗走に追い込んだ。でも、その代償は大きかった。ブランドンは崩壊。都市としての機能を失った」


 つまり、旧王都ブランドンは一方的に破壊されたわけじゃなく、戦闘の影響でボロボロになったってことか。リッバンループの例があるから、それ自体はありえないことじゃないが。


「リッバンループに遷都したのは、当時もう復興計画が動き出していたからだって話だよ。どうせ作り直すなら新しい王都にってところじゃないかな」


「なるほど……それで今に至るってわけか」


「ううん。今に至るまでには、まだまだ話があるんだよ」


「そうなのか?」


「マッサ・ニャラブの攻撃に便乗して、帝国も軍事介入してきたの。海軍を率いて、王国に上陸。そのまま王国軍と戦いになった」


「まじかよ」


 泣きっ面に鉢とはまさにこのことだな。弱り目に祟り目と言ってもいい。どっちでもいいんだ。


「前々から敵対していた帝国的には、王国がボロボロになった絶好の機会を見逃す手はないってか」


「それだけじゃないよ。北方からはノルデン公国。南方からはバラト民主国。敵対関係にあった国が我も続けとばかりに次々と攻め入ってきたの」


 え。やばいやつやんそれ。


「あのあたりは帝国の息がかかってるからね。同盟関係っていうか、事実上の属国って感じかな? でもね、だからこそ王国側もあの二国の参戦は予測できた。王国は残った兵力を二つに分けて、二人の指揮官に託したの。ノルデン公国はエレノアちゃんが、バラト民主国はムッソー大将軍が、それぞれ軍を率いて食い止めた」


 すげぇ。


「なんていうか……完全に包囲されてるじゃねぇか。それでよく持ちこたえられたな。ムッソー大将軍はともかく、エレノアってそこまで強かったか? スキルが強力なのは認めるが」


 あいつの『無限の魔力』は文字通り底なしの魔力だ。魔法を撃ちまくれるって言えばチートっぽく思えるが、戦局を変えるだけの力があるかは疑問だ。


「もちろんエレノアちゃん一人だけじゃないよ? 歴史に残る偉業を果たせたのは、彼女を支える有能な従者達がいたから」


 有能な従者とな。

 なんか顔ぶれを予想できるぞ。それは。

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