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タイミングの神

「アナベルを取り返そう。子どもってのは、やっぱりちゃんと親のもとで育つべきだ」


「でも……」


「何か心配事があるのか?」


「この国は、あの子のおかげで強くなりました。ジェルド族が国内で覇権を取れたのも、あの子あっての話です」


「ふむ」


 オルタンシアなりに故郷のことを案じているのだろう。アナベルがいなくなったら、この国が落ちぶれてしまい、一族が悲しい目に遭うのではないかと。

 優しいな。けど、それは甘さでもある。


「人の子を奪って得た栄光なんか、どうせ長続きしないさ。それとも、この国にいられなくなるのが辛いか?」


 オルタンシアは生まれ故郷を愛していた。今もその気持ちが変わってないなら、迷うのも仕方ないか。


「いえ……この国に、もう未練はありません。自分が一番辛い時に、誰も助けてくれませんでしたから」


「そうか」


 口ではこう言っているが、そう簡単に故郷を捨てることはできないだろう。

 俺だって、元の世界に未練がないと言えばウソになるからな。


「あのさオルたそ。エトワールの街で言ってたよな。現地妻になりたいって」


「……はい」


「俺、あの時それもいいかもなって言ったけどさ。本心じゃ、一緒に来てほしいって思ってた。離れ離れってのは、寂しいし」


 それに、あの頃とは状況も大きく変わっている。


「俺と一緒にこい、オルたそ。アナベルと一緒にだ。オルたそのことを分かってくれる奴らがいるところに行こう」


 オルタンシアの腕が、俺をぎゅっと抱きしめた。


「はい……ついていきます。どこへでも、連れて行ってください……」


「ああ、任せろ」


 そうと決まれば、女王に直談判しに行くか。

 まあ受け入れられないとは思うが、万が一ということもある。話し合いで解決できるならそれが一番いいしな。


「飯を食っちまおう。何をするにも、腹が減ってちゃ力がでない」


「えへへ。そうですね」


 お。

 やっと笑ったな。

 沈んでいる表情も綺麗だったが、やっぱり女の子は笑っている方がいい。


 何の肉なのかよくわからない肉料理を胃に放り込む。味が濃くてうまい。

 ちょうど完食したタイミングで、部屋に侍女がやってきた。


「聖母様。よろしいですか?」


 ぺこりと頭を下げる小さな侍女。


「なんですか?」


「女王様がお呼びです。そちらの――」


 侍女は俺を見て、


「アルバレス様も一緒に、と」


「へぇ」


 なんだ。

 向こうからお呼びとあっちゃ、行かないわけにはいかないな。

 これは渡りに船というやつだ。

 アルドリーゼが何を考えているのか、しっかり聞かせてもらうとするか。

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