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奪還屋よろしく

「それからしばらくして……自分が、妊娠していることがわかったんです」


「アナベルか」


 こくりと頷くオルタンシア。


「みんな喜んでくれました。ジェルド族にとって、子を孕むというのは……一人前の女になるってことですから。一族の繁栄にも、繋がりますし……でも」


「俺との子だって、信じてもらえなかった」


「はい……種馬さまは忘れられ、自分はずっと女王さまと一緒にいたことになっていました。案内人として選ばれたことも、すっかりなかったことに」


 マーテリアの雑な世界修正のせいだな。


「必死に訴えたんです。本当のことを。ロートス・アルバレスというジェルド族の救世神が、自分に種付けをしてくれたんだって。種馬さまとの旅のことも、ちゃんと語りました。それなのに」


 金の瞳に涙が浮かぶ。


「みんな、自分が乙女のまま神の子を孕んだって。奇跡だって……そうやって盛り上がるだけで、何もわかってくれようと……しなかったんです」


 言葉に嗚咽が混じっていく。

 俺はすぐさま立ち上がり、オルタンシアの震える肩を抱きしめた。


「ごめんな。俺がそばにいてやれなかったせいで」


 ふるふると、オルタンシアは首を振る。


「種馬さまのせいじゃ、ありません。悪いのは、信じてくれなかった……みんなですっ」


 そう言って、俺の胸でさめざめと泣いてしまう。彼女の苦悩を理解できる者は、ジェルド族にはいなかった。

 ひとしきり泣いてから、オルタンシアは再び語り始める。


「アナベルが生まれると、あの子はすぐに……女王さまに、取り上げられてしまいました」


「それは、なんでなんだ?」


 湧き上がる怒りを抑えつつ、俺は努めて平静な声で聞く。


「あの子が本当に神の子かどうか。それを確かめるためです。そしてあの子は確かに、神の子としてふさわしい力があった」


「なんか、政治的な判断を下してるって聞いたけど……」


「はい。まるで予知能力でもあるかのように、国にとって正しい答えを導き出してくれるのです。言葉はまだ話せませんが、是か非かの意思表示くらいは……生まれた頃からできましたから」


「なるほどな。まぁ俺の子なら、なくはないか……」


 あの子は、俺が〈妙なる祈り〉を持っていた時にできた子だ。なにかしら特殊な能力を持っていてもおかしくはない。


「しかし、親から子を取り上げるとは許しちゃおけねぇな。アナベルには、会えているのか?」


「たまに……」


 悄然とした表情を見るに、ほとんど会えていなさそうだ。


「取り返すか」


「えっ……?」


 涙ぐんだ瞳が、俺を見上げる。

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