まだ何かできることがあるはずだ
啖呵を切られたアイリスは、相変わらずにこにこしたまま何も分かっていないような感じだ。
「目標を持つのはよいことです。頑張ってくださいね」
「余裕ぶっていられるのも今のうちよ。これからの一ヵ月で、もっともっと強くなってやるんだから」
エレノアの意気込みはすごい。
マホさんも感心したように頷いている。
「それじゃあね、アイリス。また会いましょう」
くるりと踵を返し、エレノアとマホさんは去っていく。
後に残されたアイリスとサラは、しばらく無言のまま彼女達の背中を眺めていた。
うまいことやったな。アイリスのやつ。
しかし、クラス対抗戦だと。そんなの俺はまったく知らないぞ。
入学のしおりに書いてあったのか? 全然読んでねぇからわからんわ。
「えーっと……」
サラはアイリスを見上げる。見知らぬ女性に戸惑っているに違いない。
「ありがとアイリス。おかげで助かったよ」
「いいえ。困った時はお互い様です。他でもないマスターが、わたくしにサラちゃんを助けるよう命じられたのです」
「ご主人様が?」
おや? まるで旧知の仲のように喋っているぞ? どういうことだ。
エレノア達が遠くに消えたことを確認して、俺はようやく二人のもとに向かう。
「サラ」
「あ、ご主人様っ」
サラがぱあっと笑顔になる。
「エレノアに絡まれるとは、災難だったな」
「なんのこれしき。でも、ご主人様がアイリスを送ってくれなかったら、いつまでも離してくれなかったかもしれません」
サラとアイリスは微笑み合う。
「サラ、お前アイリスがわかるのか?」
「え? ええ。わかりますよ。スライムでしょ? どうして人の姿になってるかはわかりませんけど」
これは驚いた。
「どうしてわかったんだ?」
「どうして……えっと、魔力の質っていうか、表情っていうか。そういうのが同じなので」
「魔力の表情?」
何を訳の分からないことを。
「サラちゃんは特別ですからね。普通の人には分からないことも敏感に感じ取れるのです」
「ふーむ」
なんか二人だけが理解しているようなものがあるのか。
まぁいいや。そんなことより。
「クラス対抗戦か……エレノアに目をつけられちまったが、どうする?」
「放っておくか。受けて立つか、ですか? でもご主人様。アイリスを従者になさるなら、新入生としては扱われませんよ。公式の試合があるなら、ごまかせないような気もしますけど」
「そうだな……」
ちょっと考えないといけないな。まだ一ヵ月あるし、それまでに思い付くだろう。
「それよりも、クラス発表までにできることをしよう」
「できることですか?」
アイリスの問いに、俺は何度も頷く。
「そうそう。メダルを持ち帰っちまったからな。職員室に直談判しに行くぞ。ベースクラスにしてくれってな」
「マスター……そんなことが可能なのですか?」
「なんでもやってみるもんさ」
とにかく俺は、職員室に行くぞ。
さぁ、善は急げだ。




