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てんやわんや

「助けてもらっておいてなんだよ! 信じられねぇ!」


 俺の前に立ち、エカイユに向けて両腕を大きく開いている。


「なんだこのガキは……」


「ライクマン族……獣人がなぜこんなところにいる?」


 エカイユ達は怪訝な様相だ。


「アニキはあのバケモンを退治したじゃねぇか! 恩を仇で返すつもりか!」


「そうじゃ」


 エカイユのリーダー格っぽい奴が一歩前に出る。他のエカイユより一回り大きく、アゴにはフッサフサの白い髭があった。

 リザードマンに髭ってなんか違和感だな。


「小童よ。おぬしも亜人じゃ。人間が我らに対して行った所業を忘れてはおるまい。人間はクソじゃ。確かにその人間はこの集落を救い呪いを祓ったが、それで人間を許せるほどエカイユの憎しみは弱くないのじゃ」


「人間人間うるせぇんだよ! アニキはな! 奴隷だったオイラを高ぇ金出して解放してくれたんだ! 見ろよ! 首輪もついてねぇ! ここに来たのだって、亜人連邦の力になるためなんだよ!」


 鬼気迫るとはこのことだな。

 ロロは小さな体で、武装した強面のエカイユ達に一歩も退かない。勇敢な子だ。


「ライクマン族の子よ。理屈ではないのじゃ。我らは人間を見るとムカつくんじゃ。人間に助けられたというだけでキレ散らかすほどにのぅ」


「そんなの……モンスターと一緒じぇねぇか……!」


 人間と亜人の溝は深い。

 これまで人間がやってきたことを考えると妥当かもしれないが、憎しみを乗り越えないと人は本当の意味で自由になれないんだよなぁ。月並みな言葉だけど、復讐は何も生まないってな。

 まぁ、人間の俺がそれを口にするのはすこし違う気もする。だから何も言わない。

 ロロとエカイユのにらみ合いの中、その静寂を切り裂いて声が響く。


「そこまでです!」


 拡声魔法を通したサラの声だ。

 獣人の軍を率いて、颯爽とこちらへ向かってくる。彼らはそれぞれ馬にも牛にも見える奇妙な機械に乗っていた。あれも魔導具だろう。


「なんだ! 何が来たんだ! 誰か教えてくれ!」


「また何か来たのか! もう散々だ!」


 エカイユ達が騒ぎ始めている。

 無理もない。あのモンスターの襲撃から落ち着く間もなく色々なことが起きている。

 俺という人間が現れ、ロロと口論し、そしてサラが来た。まさしくてんやわんやだな。


「戦士長! あれはドルイドの娘です!」


「……なんじゃと? このようなタイミングで……面倒なことになるぞい……」


 エカイユ達は更に緊張を強める。


「戦いをやめなさい!」


 獣人達は集落に突入し、俺を取り囲むエカイユ達と対峙した。

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