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急に何を言い出すの

 どくん。


 右腕が脈打つ。

 だしぬけに熱くなった痣が、黒い瘴気を発し始める。


「これは……なんだ、この腕は……!」


 ヴォーパル・パルヴァレートの前進は、既に瘴気に染まっている。そこから噴き出る瘴気が、煙のように空へと立ち上っていく。


「そういうことかよ……!」


 瘴気の刻印が、共鳴している。

 理由も原理もまったくわからないが、これはそういうものなんだろう。


 ヴォーパル・パルヴァレートの咆哮が天を衝く。

 鼓膜が吹っ飛びそうだ。耳をちぎって捨ててぇ。


「まったくよ……前は目からビームで楽勝だったのに、今回はそういうわけにもいかないんだよなぁ」


 俺は腰の剣を抜き放つ。

 腕から漏れる瘴気が、刃へと流れ込んでいく。


「いくぞ……!」


 大地を蹴り、一直線に突撃。ヴォーパル・パルヴァレートの太い腕を一本、斬り落とすことに成功する。

 だが。


「まじか!」


 反撃として繰り出された頭突きが迫る。

 それをモロに喰らった俺は真下に吹き飛ばされ、一瞬にして大地に叩きつけられる。

 激突した地点から蜘蛛の巣のように網目状にヒビが入った。


 すごい衝撃だ。

 けど。


「痛くねぇ」


 鍛えてるからな。

 立ち上がり、ヴォーパル・パルヴァレートを見上げる。

 奴は斬り落とされた腕を押さえ、俺を睨みつけている。こいつは痛がってそうだな。

 そこに、エカイユの戦士達が集まってくる。


「あれは……人間だ!」


「人間が戦ってるのか! どうしてこんなところに人間がいる!」


「ええい! 今はそんなことどうでもいいわ! あのバケモノをなんとかせい!」


「今が好機だ! 連携してとどめをさせい!」


 数人のエカイユ達がバルディッシュを持ってヴォーパル・パルヴァレートに突撃していく。

 脚を挫き、腕を切り裂き、目を潰す。

 目にも留まらぬ巧みな連携と力強い攻撃だ。

 そしてついに、ヴォーパル・パルヴァレートの首を斬り落とした。


「やったぞ! 首を獲った!」


「首を斬り落として死なない生き物なんていないからなぁ!」


 束の間の喜び。

 俺には分かる。ヴォーパル・パルヴァレートは、まだ死んでいない。


「馬鹿野郎! 油断すんなっ……!」


 ヴォーパル・パルヴァレートの瘴気が蠢く。斬り落とされた腕、首。その断面に瘴気が集まり、瞬時にして再生する。


「うそだろ――」


 無傷の状態へと復活したヴォーパル・パルヴァレートは、咆哮を伴った爪の薙ぎ払いで一人のエカイユを三枚におろしてしまった。血と臓物が飛び散る。即死だ。


「馬鹿なっ! 首を落としたのじゃぞ!」


「ありえない……こんなことが……!」


 恐れ慄くエカイユ達。

 俺はその前に躍り出る。


「下がってろ! 俺がやる!」


 再生する奴には、再生速度を超えるダメージを与え続けるしかないって、なんかの漫画で読んだ気がする。

 それを実践するだけだ。


「俺ならできる。勝てる!」


 柄を握り締め、跳躍。ヴォーパル・パルヴァレートの頭上から攻撃を仕掛ける。


「なんか適当に技名でも叫ぶか!」


 かっこいいやつ。再生させないくらいの威力と速度がありそうな名前。

 そういうの、なんかないか。


「うおおおぉおっ! あ、えっと!」


 ヴォーパル・パルヴァレートの頭部が迫る。


「思いつかなかねえええええぇえぇっ!」


 俺は剣を水平に構え、凄まじい速度で体を回転させる。握った剣がまるでプロペラのように回転し、ヴォーパル・パルヴァレートの肉体をダルマ落としの要領で斬り落としていく。


「あっヘリコプター斬り! ヘリコプター斬りがいいわ。いややっぱダサいわ!」


 自分でもよくわからないテンションだった。

 おそらくこれは、戦闘の緊張と興奮と、瘴気の影響だろうか。

 そんなこと言っているうちに、ヴォーパル・パルヴァレートは跡形もなく消滅する。

 あとには瘴気の残滓だけが残り、静寂が訪れた。


「ふぅ……」


 ヘリコプター斬りの、勝利だ。

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