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善じゃなくても

 しばらく後。

 泣き腫らした目で、サラはソファにちょこんと座っていた。

 膝の上に手を置くサラに、アイリスとルーチェが寄り添っている。


「この国が抱える問題は数え切れませんけど、特に厄介な問題が二つあります」


「それは?」


 俺はアイリスが使っていたスツールの上から尋ねた。


「一つは諸外国からの圧力。もう一つは、連邦の意思が統一されていないことです」


 ふむ。

 前者はさっきも聞いた通りだが、後者は少し意外だな。


「亜人はみんな、力を合わせて外国に立ち向かっていると思ってたけど、違うんだな」


「……はい」


 サラは悄然と俯く。


「種族の自立性を尊重して連邦という形を取りましたが、それがいけなかったのかもしれません。いくつかの派閥に分かれ、意見はバラバラになってしまいました」


「平和な時ならそれもいいかもしれないが、国としての地盤が築く前にそれじゃあな」


「幸い、獣人達はボクについてきてくれてますが……」


 そういえば、この要塞にいるのも獣人ばかりだった。つまりはそういうことか。


「ボクにはやっぱり荷が重かったんです。ドルイドの血統だからって、ボクはなんの力も持たないただの小娘です。人を引っ張る求心力だって全然ないのです」


「そう自分を卑下するな。十二歳で一国を背負うなんてそうそうできることじゃない。獣人を率いて国を維持できているだけでもすごいさ」


 俺が十二歳だった時なんて、いかに学校から早く帰ってゲームをするかだけが頭の九割が占めていたぞ。あとはお菓子をいっぱい食べるとかな。

 それに比べたらサラはよくやっている方だと思う。

 というか偉人レベルだろ。十二歳で国のトップとか。


「わかった。じゃあまずはそれをなんとかしよう。亜人達をサラに従うようにすりゃいいんだろ?」


「簡単に言いますけど。いったいどうやって」


 そうだなぁ。


「全然わからんけど、とりあえず話してみて断られたら殴るとか?」


 冗談で言ったつもりだったが、意外なことに誰も反対はしない。


「力を盾にした恐怖政治は、一定の効果があるからね。急いで国をまとめる案としては悪くないと思う」


 発言したルーチェは真面目な声色だった。


「もちろん、実際に粛清とかやり始めちゃうとダメだよ。でも脅しをかけるくらいなら許されると思う。亜人同士で争ってる場合じゃないでしょって」


「なるほど、アリだな」


「でも、そんなのでみんなボクについてきてくれるようになるんでしょうか?」


「あ、じゃあこんなのはどう?」


 ルーチェがぴんと指を立てる。


「ロートスくんが各種族の街を襲撃して、サラちゃんが獣人を率いてそれを撃退するっていうのは」


「一芝居打つってわけだな」


 さながら泣いた赤鬼に出てくる青鬼よろしく、俺が悪者を演じると。


「でも、そんなことしたらあなたが……」


「いいんだよサラ。お前の為なら俺はなんでもやるさ」


 サラはぎゅっと唇を引き結ぶ。また瞳がうるんでやがる。


「そうとなれば善は急げだ。さっそく準備に取り掛かろう」


 善かどうかはわからないが、とにかく急ぐのだ。

 いくぜ。

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