ミニチュアなら見たことある
王国と亜人連邦のとの国境にやってきた。
そこには長大な防衛陣地が築かれており、未だ戦争状態が解かれていないことを物語っていた。
「うわぁ……」
ロロが引いている。それくらい物々しい佇まい。
「万里の長城みたいだな」
実物を見たことがないが、たぶんそんな感じ。
石造りの砦には兵士達が配置されており、やばい雰囲気を醸し出している。
俺達の馬車が近づくと、兵士達が余計に険しい顔になった。
「待て!」
当然、呼び止められる。
「何者だ。このナーゲィ城に何の用か」
え。大丈夫なのか。ここを通れるのかよ。
「私に任せて」
ルーチェがにっこりと笑み、馬車を止めて外に出ていく。
ものすごく可憐でかわいらしい美少女メイドが出てきたものだから、兵士は一瞬戸惑ったような仕草を見せた。
「こんにちは兵隊さん。私は『大魔導士』エレノア様の家で働いておりますソルヴェルーチェと申します」
そう言って、ルーチェはケープに縫いこまれた紋章を示す。
「『大魔導士』様の……。これは失礼。よく存じております。ソルヴェルーチェ嬢といえば、公私に関わらずに『大魔導士』様をお支えする従者筆頭であると」
「私共は密命により、亜人連邦への潜入任務に就いています。ここを通ってもよろしいですね?」
「もちろんです。今すぐ門を開きます。開門!」
兵士が合図をすると、巨大な鉄の門が音を立てて開いていく。
「どうぞお通り下さい。幸運を」
「感謝いたします」
ルーチェが車内に戻ると、馬車は門をくぐっていく。
「ふーん。エレノアの奴、かなりの影響力を持ってるんだな」
窓から砦を眺めつつ、俺は何の気なしに呟いた。
「マッサ・ニャラブが侵略してきた時、国一番の戦果を上げたのがエレノアちゃんだったからね」
「まじかよ。あいつ、そんなに強かったっけ」
「アイリスがいたから」
「ああ……」
相変わらずの微笑で馬車に揺られるアイリスは、俺達の視線を受けて小鳥のように首を傾げた。
「しかし、皮肉なもんだな。エレノアにとって越えられない壁だったアイリスが、今や従者になってるとは。なんでそんなことになってるんだ?」
「ロートスくんがいなくなったことで、従者っていう属性だけが残ったんだよ。じゃあ誰が主人かってことになるんだけど……たぶん、ロートスくんに一番近い人物がエレノアちゃんだったんじゃないかな」
「ふむ。なんとなく理解できるけども。複雑な心境だな。エレノアに盗られたみたいで」
「あはは。預けてるって考えればいいんじゃない? 私はもうロートスくんのところに帰ったわけだし」
「……そうだな」
何の話をしているのか、アイリスはまったくわかっていないようだった。
どうすれば思い出してくれるのか。それを考えようとした、その時だった。
遠方から火炎の砲弾が、いくつかの軌道を描いて飛来した。




