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定まってきたぁ

 翌朝。


 邸宅の前には馬車が用意してあった。大きな四頭立ての車両だ。

 外見は地味だが、逆に言えば質実剛健であるとも取れる。


「アイリス。荷物は積んだ?」


「ばっちりですわ」


「よし」


 ルーチェとアイリスのやり取りを聞きながら、俺はロロと一緒に馬車を見上げていた。


「見てみろよアニキ! すげぇ馬車だなぁ!」


「ああ。すごい」


 大体二tトラックくらいの大きさがある。これだけ広いと、旅も快適だろう。

 先頭で車両を引くフォルティスもどことなく誇らしげである。


「戸締りオッケー。それじゃ、いこっか」


「ん? あれ?」


 ルーチェの腰にはポーチ類を取り付けたベルトが巻かれていた。メイド服の上からはフード付きのケープを羽織っている。どう見ても旅装という感じだ。


「一緒に来てくれるのか?」


「もちろん」


 太陽のような笑み。


「あ。もしかして、置いていくつもりだった?」


「エレノアの家を守るって役目があると思ってたよ」


「ふふ。家なんかよりロートスくんの方が大事。そうでしょ?」


「……違いない」


 まったくルーチェの奴ときたら。いい女すぎるんじゃないか。


「それじゃ、出発だね」


「おう」


 俺達は馬車に乗り込み、王都リッバンループを後にする。

 戦争による壊滅から復興し、国内最大の都市となったリッバンループをもう少し堪能したかったが、それはしばらく後になりそうだ。

 憧れのスローライフは遠のくばかりだな。

 もはや、本当に自分がスローライフに憧れているのかさえ怪しくなってきたし。


「サラの建てた国ってのは、具体的にどういう感じなんだ?」


 馬車に揺られつつ、俺はルーチェとアイリスに情報を求めた。

 予備知識は大切だ。


「亜人連邦。それがサラちゃんの興した国の名前だよ」


「そのまんまだな。しかし連邦ってことは……一つの統一された国じゃないってことか?」


「種族ごとに自治を認めているのですわ。一つ一つは小さな自治体ですが、形式上は連邦ってことになっているということですの」


「なるほど。そんでその国家元首がサラってことか」


「そういうことですわ」


 ふむ。


「サラは十二歳。その年で国家元首なんてやるせないな。亜人はかなり追い詰められているってことか?」


 それともお飾りで、周囲に政治ができる人材が揃っているのか。


「サラちゃんはドルイドの血統だからね。独立の象徴としては申し分ないんだよ」


 ルーチェが悩ましげに言う。


「でも、王国とマッサ・ニャラブに挟まれた場所じゃ満足な国力は得られないし、実質的にはマッサ・ニャラブの属国みたいなものだね」


「世知辛いな。支配者が王国からマッサ・ニャラブに替わっただけじゃないか」


「それでも、自由に生活できる分マシなんだと思う」


 大変な状況なのはどこも同じか。

 とりあえず、サラに会って現状を把握しないとな。あいつにも俺のことを思い出して貰わなきゃいけないし、なによりあいつ自身がどんな状態か気になるところだ。


「ロロ」


「なんだい?」


「お前、亜人の国で暮らしたいか?」


「そりゃ、暮らせたらいいとは思うけどさ」


「そうか。それならいい」


「あ! だめだぜアニキ。オイラはまだアニキに恩を返しちゃいねぇ。そんなのでオイラだけ置いていったりしないでくれよ」


「俺達の旅は危険だぞ」


「承知の上さ。オイラだって捕まって売り飛ばされちまうまでは一人で生きてきたんだ。へっちゃらさ」


「そうか。律儀な奴だな」


 そこまで言うなら、連れて行くのもやぶさかじゃない。

 俺が守ればいいだけの話だろ。

 目的が定まってきたな。


 一つ、みんなの記憶を取り戻す。

 二つ、腕の呪いを解く。

 三つ、神を滅して戦争を終わらせ、この世界に平和を取り戻し、定められた運命を解放する。


 なかなかに難しい目標だが、やるしかないだろう。

 それなりの覚悟をもってこの世界に戻ってきたんだからな。


 やってやるぜ。

 この野郎。

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