またしても奴隷を買ったのだ
表彰式は辞退した。
体中痛かったし、そんな気分でもなかったからだ。
どうせ俺が出ても、『無職』やらなんだと罵倒されるのがオチだろう。
「いてー……」
闘技場の医務室で医療魔法による治療を受けたはいいものの、アイリスにやられた怪我は完全には治らなかった。それだけ威力が凄まじかったということだろう。
医者が言うには、あれで生きている俺の肉体の方がすごいらしいが。
「とにかく百万エーンは手に入ったことだし、とりあえずあの奴隷を買いに行くか」
今ごろマリリンおばさんは表彰式に出ていることだろう。三位決定戦で勝ったというのを小耳に挟んだ。
となると、店は開いているのか? 店番がいればいいんだが。
そんなこんなで、奴隷館に辿り着いた。
「やってる?」
営業してそうだったので中に入ると、気の弱そうなおじさんが店番をしていた。
「いらっしゃい。本日はどのような御用で?」
「ライクマン族の子どもがいるだろ。そいつを買いに来た」
「へぇ。どうぞこちらへ」
おじさんはカウンターの向こうから出てきて、奥の部屋に向かう。
薄暗い部屋の檻には、タヌキっぽいケモミミの子どもが尻尾を丸めて座り込んでいた。
「あ……! あんたは!」
俺の姿を見るなり立ち上がり、鉄格子を掴む。
「ほんとに来たのかよ……?」
「ああ。約束しただろ?」
「本気だとは思わねぇじゃん、あんなの」
「まぁ、確かに突拍子もない話の流れだったよな」
主にマリリンおばさんがキレたせいだけど。
「お客様。こちらは三十万エーンの商品となっておりますが」
「ああ。現金一括だ。確認してくれ」
俺は札束を渡す。
「では失礼……ひぃふぃみぃ」
おじさんがお札を数える間、俺はライクマン族の子と話すことにした。
「名前、教えてくれるんだろ?」
「しゃーねーなぁ、まったく。ま、約束守ってくれたしな」
へへ、と鼻をこする。
「おいらロロってんだ。よろしくな! ロートスのアニキ!」
「ロロか。いい名前だ」
「だろ? おっかちゃんがつけてくれたんだぜ。おいらこの名前が気に入ってんだ」
どうやら多少は心を開いてくれたようだ。
やはり約束を守る人間は信用されるというわけだな。
「さんじゅう……はい確かに。それでは契約の首輪を……」
「いや、それはいらないわ」
「え?」
サラの時も思ったけど、あんまり意味ないしな。
「しかし……首輪が無ければ反抗や逃亡を許すことに……」
「いいよ別に。主義じゃないし」
「ええ? 主義とかそういう問題では……」
おじさんは食い下がる。
売る側としては、売った奴隷が問題を起こすのを避けたいのだろう。そりゃそうだ。
「たのむよおっちゃん」
言いながら、俺は十万エーンを渡す。
「……わかりました」
それだけで、おじさんはすんなり了承してくれた。
やったぜ。
やはりチップの力は偉大だ。
「ほら、出るんだ」
おじさんが檻を開けると、ロロがぺたぺたと外に出てくる。
「うーんっ! やっと出られたぜ! ようやくこんなクソみてぇな場所とオサラバだ」
「よかったな、ロロ」
「ああ! これも全部アニキのおかげだぜっ!」
当然だな。
こうして俺は、またしても奴隷を買ってしまったのだった。
つくづくお人好しだな。俺って奴は。




