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その名はアイリス

「まさかモンスターに人の心を教えられるなんてな。お前ほんとにモンスターか?」


「モンスターにも心はあります。心というのは、人も獣人もモンスターも、そんなに大きく変わらないものなんですよ」


「なるほどな」


 確かにそうかもしれない。


「マスター。ひとつお願いがあります」


「なんだ?」


「わたくしに、名前をお与えください」


 そうだ。スライムは種族であって名前じゃない。

 俺は彼女の名付け親になるのか。


「よし、お前はアイリスだ」


 俺が転生前、好きだった花の名前だ。この身も心も美しい少女にふさわしいと思う。


「アイリス……素敵な響き」


 名を抱きしめるように囁いて、彼女は嬉しそうに笑った。


「マスター。ありがとうございます。とても嬉しいですわ」


 俺は彼女と目を合わせる。


「アイリス」


「はい」


「呼んでみただけだ」


「ふふっ。マスターったら」


 アイリスの笑顔に癒される。


 俺の落ち込んだ心は幾分かマシになっていた。


「これからはわたしくも、サラちゃんと一緒にマスターの従者として頑張りますから」


「ああ。そうだな。頼むぞ」


 だけどその前に。


「服を用意しないとな……」


「あ」


 アイリスは全裸のままだ。

 スライムの姿では服を着ていなかったのだから当然だ。彼女に合う服などないから、買いに行かなければならない。


「一旦スライムに戻れるか?」


「できますけれど……またあの狭いビンに押し込められるのは……」


 そんなに嫌だったのか。それは悪いことをした。


「でも全裸の美少女を連れてなんかいたら学園中の噂になっちまう。これ以上目立ちたくはないんだよ。分かってくれ」


「わかりました。それがマスターの信念なのですね」


「すまんな」


「とんでもありませんわ」


 アイリスの体がぴかっと光る。


 次の瞬間には、俺の足下でスライムがぷるぷると震えていた。


「ありがとう。服を買ったらずっと人の姿でいていいからな」


 そっちの方が俺も嬉しいしな。


 アイリスはぷるっと震えると、ビンの中に収まってくれる。


 さて、多少気も紛れた。


 サラは今頃ランチの最中だろう。今のうちにアイリスの服を買いに行くか。

 手持ちは少ないが、まあ何とかなるだろう。


 それにしても、アデライト先生がスキルで容姿を偽っていたなんてな。

 なぜそんなことをしていたのか。

 あの魅力的なおっぱいも偽りだったのだろうか。


 もしそうなら、許せん。


 純情な男心を弄んだ罪。いつか償ってもらわないとな。

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