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マーテリアを?

「今日、ここでエストを倒してください」


「……なんだって」


「今日、ここでエストを倒してください」


 まったく同じ響きで、アンがリピートした。


「そりゃ……倒すこと自体はやぶさかではないけどよ。まだ〈八つの鍵〉が揃ってない」


 そもそもグランオーリスに来たのはセレンが鍵かもしれないと思って確認しに来たわけだし。

 だがアンの意思は変わらないようだ。


「鍵は必要ありません。むしろ、鍵が揃うのを待っていれば間に合わなくなります」


 アンはずっと黙ったまま話を聞いているオルタンシアを一瞥する。

 どういうことだ。


「アン。ちゃんと説明してくれ」


「エストには自己保存の性質があることはご存じですか?」


「ああ。そのおかげで石像が襲ってきたりしたな」


「自らの脅威を排除しようとする働きですね。それとは別に、自身を外敵から守ろうとする力も働いています。今、エストは自らの概念に障壁を形成しようとしているのです」


「概念に障壁?」


 意味わからん。


「この世界で唯一エストを滅ぼせるロートス様への対抗として、バリアを張ってその中に籠ろうとしている。ということです」


「ん? それを破るために鍵が必要なんじゃないのか?」


「違います。〈八つの鍵〉はあくまでエストの核、万象の女神マーテリアが存在する空間へ続く扉を開くためのもの。エストが障壁を張り終えてしまえば、鍵は無用の長物となってしまいます」


「待て待て。だったらどうしたらいいんだ」


「ですから、今日エストを倒してください。消滅させることはできませんが、障壁の展開を阻害することは可能です。ダメージを与えることができれば、また最初から障壁を張りなおすことになり、それなりの猶予が生まれます」


「時間稼ぎってことか?」


「要約すればそうです」


 なるほどな。

 つまり、ここでエストに一撃食らわせておけば、後々楽になるってことだ。

 逆に言えば、ここで対処しないと取り返しのつかないことになる。


 エストとのご対面はもうちょっと後の話かと思っていたが、まさかここでやることになるなんてな。

 だが、それもアンの言うことが正しかったらの話だ。出会ったばかりの女の言葉を鵜呑みにするわけにもいかない。


「アンは、マーテリアを信仰していたんだよな」


「はい。今も昔も信仰心は変わっていません」


「なら、エストを消滅させるのはまずいんじゃないか? エストはマーテリアをもとに生み出されたんだろ?」


「いえ……」


 そこでアンは俯いた。

 答えはすぐに返ってこない。


「しばらく前、あーしはロートス様がエストを滅ぼそうとしていると知りました。母が持つ権能が、ロートス様の覚醒を察知し、諜報員に探らせたからです」


 ふむ。


「その時、あーしは嬉しかったのです。やっとマーテリア様をお救いできる。それを成し遂げる英雄の出現に」


 マーテリアを救うか。

 なんとなく分かってきた気がするな。アンの考えが。

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