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豆腐かよ

 清々しい朝がやってきた。

 それなりの疲労を感じるが、とてもすっきりとした目覚めだ。

 ここ数日でチャージしていたものを吐き出したおかげかもしれない。


 ベッドの上でうんと身体を伸ばす。

 隣ですやすやと寝息をたてるオルタンシア。暑いのか、華奢な肢体を晒していたので、そっと布団をかけてやる。

 なんて健やかな寝顔だろうか。

 まだ幼さの残る中性的な美しさが光っている。


「やっちまったか」


 後悔はない。

 ちょっとした罪悪感はある。

 主に、エレノアとアデライト先生に対して。

 まぁ、今更だ。

 開き直り続けるしかない。


 俺は静かにベッドから出ると、服を着て部屋を出た。

 そこでばったり、ラルスと顔を合わせる。


「ああ。ちょうどいい。今起こしにいこうと思っていたところなんだ」


「どうした?」


 なにやら慌てている様子だ。


 こんな朝から一体何があったのだろう。


「キミを追ってギルドの連中が来てる。チェチェンの仇討ちだと息巻いているぞ」


「まじかよ」


 仇討ちってなんだよ。

 別に殺してねーわ。


「そいつらは今どこに?」


「宿の前に集まってる」


「わかった。なんとかする」


 俺は早足で宿から出た。

 宿場町の大通りに、数十人の冒険者が整然と並び立っていた。

 なんか軍隊みたいだ。冒険者ってあのモヒカン達みたいなならず者ってイメージだったけど、なんか雰囲気が違う。

 周囲の通行人達は何事かと遠巻きに眺めている。


「出てきたぞ! あのガキがロートス・アルバレスだ!」


 冒険者の一人が叫ぶ。

 凄まじい殺気が一挙に集中する。


 うお。

 なんて圧力だ。並の人間ならこれだけで気絶するだろうな。

 事実、俺についてきたラルスは殺気の余波だけですでに失神していた。


 おいおい。

 最近いいとこまったくないな。


 ラルスも決して弱いわけじゃない。むしろ強者の部類に入る。アイリスも『トリニティ』には一目置いていた感じだったしな。

 そのラルスがこの有様だ。

 グランオーリスの冒険者は、それだけレベルが高いってわけか。


 俺は冒険者達の前に歩み出る。


「こんな朝早くからご苦労なこったな。俺に何か用か?」


 更に殺気が強まる。肌がビリビリと痺れ始めた。

 最前列にいた一人の若者が一歩前に出てくる。

 身の丈ほどもある大剣を背負ったツンツンした金髪の青年だ。黒いバトルスーツがかっこいい。


「俺はサニー・ピース。S級冒険者だ」


 びっくりするくらいのイケメンボイスだった。


「そして、キミが再起不能にしたチェチェン老の弟子でもある」


「弟子……すると、後ろの奴らも?」


「そうだ」


 サニーは頷く。


「ここに集まった者は、みなチェチェン老の弟子だ」


 つまり、弟子達が師匠の仇討ちに来たってことか。

 あのじいさん、そんなに人望のある冒険者だったのかよ。

 しかし、再起不能ってのはどういうことだ。


「話が読めないな。俺はデコピンしただけだぞ?」


「チェチェン老は神スキル『リュミエール・アッシュ』の恩恵もあって、生まれてこの方敗北を知らなかった。それが、お前のような子どもに完敗したんだ。そのせいで昨夜、彼は引退を表明した」


「クソ雑魚メンタルじゃねぇか」


 再起不能って精神的な理由かよ。ちょっとダサすぎるだろ。

 いい歳して、たった一回の挫折で折れるんじゃねぇよ。

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