神の山
ルクレツィア・カイドという女ギルド長は、ドレスのスカートを揺らしながらのしのしとホールに足を踏み入れる。
「ロートス・アルバレスだね」
俺の目の前まで来ると、豪華な羽扇子を向けてくる。
近くで見ると、でかい。
太っているのはもちろんだが、身長もある。二メートルは軽く超えているだろう。
異様な人だ。
「俺を知っているのか?」
「無論。お前のことは聞き及んでいる。王国軍とギルドに反旗を翻した、大罪人だとね」
そりゃそうだよな。
ギルドにも横の繋がりってのはある。
「そっか。それで、俺はどうなる?」
「試験は合格だ。早速だが仕事にかかってもらう?」
「へ? そうなの?」
「そうだ。お前のような新参者を今か今かと待っていたんだよ」
「そんな風には見えなかったけどな」
よそ者はお断り、みたいな雰囲気だっただろ。
「この国の現状は知っているか?」
「モンスターの大量発生の件か」
「話が早くて助かるよ」
ルクレツィアは丸いお腹をポンと叩く。
「お前には、神の山に入ってもらう」
「神の山? なんだそりゃ」
「この国一番の大きな山だ。神が住むと言われていてね。立ち入り禁止になっている」
「どうしてそんなところに俺が?」
「これまでの調査で、モンスターの発生源がそこだってわかったのさ」
神の山からモンスター? なんかきな臭いな。
ルクレツィアは太い指を二本を立て、俺を見下ろした。
「お前の任務は二つ。連絡の途絶えたA級冒険者パーティの捜索および救出。そして、モンスター大量発生の原因の排除だ」
「ふっかけたなぁ。俺をそこまで信用していいのかよ?」
「信用なんかしちゃいない。ただ能力は認めている。国内でも五本の指に数えられるチェチェンを倒したんだから。任務完了のあかつきには、王室に取り次ぐことを約束しよう」
「おい。あんた……知ってたな。俺がセレンに会いに来たこと」
「ギルド長の情報網を舐めるな」
食えないおばさんだ。
この分だと、俺の正体も知っていると考えた方がいいだろう。
わざわざ神の山とやらに送りこむんだ。
俺とエストを引き合わせようとしているのか。
「おーけー。神の山に行くわ」
「いいね。話の早い男は女にモテるよ。あっちの方は早いとだめだけどね」
「下ネタかよ」
冗談を言いながら、ルクレツィアは笑い声一つあげない。
「そこにいる『トリニティ』の三人。坊やについて行ってやりな。神の山までの道案内くらいはできるだろ」
「俺達が……?」
ラルスは戸惑っている。
「まぁ、やれと言うならやるけどよ」
ハドソンがスキンヘッドをさする。
「報酬は弾んでよねぇ」
ミラーラは気だるそうに言った。
よし。
とにかく、当面の目的は決まったな。
グランオーリスの問題を解決して、セレンに会うってことだ。
まずは、神の山に向かおう。
話はそれからだ。




