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「マジかよ」


 思わず笑ってしまう。

 まさかこんな先制攻撃をやってきやがるとは思っていなかった。

 けど、それがどうした。


「せいっ!」


 俺は老人に向かって前蹴りを放つ。

 肩から先を失ったせいでバランスが取りにくいが、うまく直撃してくれた。

 手応えは浅い。

 老人はふわりと吹き飛び、壁際にゆっくりと着地した。


「ほ。こりゃ驚いたわい。まさか反撃がくるとはの」


「驚いたのはこっちの方だぜ。じいさん。S級が新人相手に奇襲なんて、大人げないと思わねぇのか?」


「新人? 馬鹿言っちゃいかんぞい」


 老人はシャツの裾を引っ張って皴を伸ばす。


「両腕飛ばされて平気な顔しとる新人なんぞおらんわい」


「ごもっとも」


 俺は床を靴底で叩く。

 すると落ちていた両腕が浮き上がり、出血する肩の断面まで戻ってくる。


「ファーストエイド」


 十八番の魔法を唱えた途端、俺の切り落とされた腕は繋がり、元通りになる。

 すでに驚愕の渦中にあったホールに、更なる衝撃がもたらされた。


「うそだろ! 切断された腕を治したってのか」


「あんなすぐに治してしまうなんて……医療魔法のレベルが高すぎる……!」


「ファーストエイドって言ってたが、シューペルエイドの間違いじゃないのか?」


「だとしてもやべぇよ。シューペルエイドは伝説の医療魔法だろうが」


「何者なんだ……あのよそ者は!」


 外野がやかましい。

 俺はテーブルの間を縫って、老人に歩み寄っていく。


「ほっほっほ。腕を斬り落として戦意喪失させるつもりじゃったが、裏目に出たようじゃの。逆に煽ってしまったか」


「別に。なんとも思ってねぇさ」


 老人の放ったあの光。

 あれはスキルによるものだろう。きっと神スキルに違いない。


「俺は『無職』のロートス・アルバレスだ。一応複数持ちだけど、スキルはクソスキルしか持ってない。あんたはどうだ?」


 俺の自己紹介に、またもや周囲がどよめいた。


「は? 『無職』だって? 最弱劣等職じゃないか」


「どうせハッタリだろ。生きる価値すらない『無職』があんな強いわけねぇ」


「ばか。この状況でなんでそんなハッタリかます必要があるんだよ」


「じゃあ本当に『無職』だってのかよ……信じられねぇ」


 そんな会話を無視して、老人はずれていたハーフパンツを引き上げる。


「わしは『神の申し子』チェチェン・チェンじゃ。神スキル『リュミエール・アッシュ』を持っておる」


 神の申し子ね。

 つまるところ、最高神エストの寵愛を受けた者ってところか。

 ある意味、因縁の対決になるわけだな。


「おお。『無職』と『神の申し子』の戦い。いいじゃねぇか、夢があるぜ」


「わしには冗談としか思えんのう」


「あっそ」


 チェチェンが動きかけたその瞬間、俺は後の先を取るべく前進する。

 強くなった俺の身体は、凄まじい速度でチェチェンへと突っ込んだ。

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