『トリニティ』
兵士達がてんやわんやしている。オルタンシアも、ドラゴンの巨大な姿に怯えている。
ふむ。
「ありゃハナクイ竜だ。そこまでの脅威じゃないだろ」
「あの……種馬さま。ハナクイ竜って、ファイアフラワードラゴン、ですよね?」
「そうそう」
「ドラゴンは、他種族を殺す習性があるんじゃ……」
「返り討ちにしたらいいんだよ。ドラゴンくらい」
俺は馬車を降りようと立ち上がる。
その時だった。
ハナクイ竜が灼熱のブレスを吐いた。閃光にも見紛う火炎。圧倒的な熱量の奔流が、眼前に迫る。
「カスケード・ウォールっ!」
その声は突然やってきた。
目の前に落下してきた滝のような水の障壁が、ドラゴンのブレスを完全に相殺していた。
「なんだ!」
「わからん! 何もわからん!」
兵士達は本当に慌てているようだ。周りの状況が見えていない。
だが俺にはわかるぞ。
宙に浮遊する魔法使いの女が、守ってくれたのだ。
「でかしたぞミラーラ!」
そしてさらに二人の男が降ってくる。
「ハドソン! ブレス後の隙を逃すな!」
「応ッ!」
一人は精悍な剣士。もう一人は筋骨隆々のスキンヘッド。
二人は息の合った連携で、ハナクイ竜の首に集中攻撃を仕掛ける。
怒涛の連撃。すごい実力だ。相手に反撃の余裕を与えていない。
ハナクイ竜は、そのまま首をずたずたにされ、息絶えて倒れてしまう。
「な、なんと……ドラゴンをあんなに簡単に……」
「冒険者だ。冒険者が助けてくれたぞっ」
兵士達は喜びながら、三人の冒険者のもとに走っていった。
「ありがとうございます! おかげで助かりました!」
「流石は冒険者の方々! 素晴らしい腕前ですな! あなた方は命の恩人です!」
あれ? やっぱりなんか王国とは冒険者の扱いが違うなぁ。
兵士が冒険者にペコペコするなんて、向こうじゃ見られない光景だぞ。
「いやぁ。とんでもない。俺達もこのドラゴンを追っていてね。本当に、間に合ってよかった」
冒険者の方も謙虚だな。
というか、あの冒険者パーティ。どこかで見たような。
記憶を探っていると、筋肉モリモリのスキンヘッド男がこちらに近づいてきていた。
「よう! 久しぶりだな坊主!」
太い腕を持ち上げ、豪快に笑う。
「……ああ! 『トリニティ』の!」
「そうだぜ。憶えててくれたみてぇだな! はっはっは!」
いつかハナクイ竜と戦った時に救援に来てくれたパーティだ。そして、冒険者ギルドに命を狙われた時に助けに来てくれた人達でもある。
まさか、こんなところで会うなんで。
「あんたらもグランオーリスに来てたんだ」
「おうよ。王国はちっとばかしゴタゴタしちまってるからな。こっちの方がのびのびやれるし、仕事もたくさんある」
「そうみたいだな」
俺はハナクイ竜の死骸を見て、肩を竦めた。
「ま、坊主がいたんじゃ、助ける必要もなかったかもだな」
「いや。そんなことはないさ。助かったよ」
「はっはっは! そいつはよかった!」
ハドソンと呼ばれていたスキンヘッド男は、またもや豪快に笑う。
なんだか、憎めない人だな。




