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眠るべきではなかった

 マッサ・ニャラブの砂漠は危険が一杯だった。

 日中は直射日光が強すぎて暑いというより熱い。素肌に浴びれば火傷するというのは大げさじゃない。


 生息するモンスターも強力なものばかりだが、そんなのは俺の敵じゃなかった。

 あくびをしながらパンチすれば一撃で死ぬからな。


「あの、種馬さま。こちらをどうぞ」


 時折、水の入ったボトルを差し出してくるオルタンシアが唯一の癒しだ。


「おう、さんくす」


 冷たい水で喉を潤して、ぷはーっと一息。


「やっぱ便利だよな。オルたその『インベントリ』って。水が冷えたまんまだし」


「でも、あんまり使い道はありませんから……」


「そうか? 武器とか食料とか大量に持ち運べるのは最強だと思うけどな」


「武器は運べても自分には使えませんし、食べ物ばかりたくさんあっても、余るだけです」


「兵站って重要だろ? 軍事行動には重宝されると思うけど」


「使い手が一人いれば事足りるので、そんなには」


「もったいない」


 使い方によっては天下を取れるスキルだろ。

 まぁ、スキル自体もうすぐなくなる代物だからな。オルタンシアが自分のスキルに固執していないのはいいことなのかもしれない。


 ずっと歩いていると、当然のことながら夜がやってくる。

 今度は火のついた松明を取り出すオルタンシア。明かりと暖をどっちもとれるからありがたい。


「あの、もうすぐオアシスが、あります。もしよければ、今夜はそこで……休みましょう」


「ああそうしよう。もう眠たすぎて頭がおかしくなりそうだしよ」


 途中、睡魔を通り越してハイになっていた時間もあったが、それも限界がある。徹夜明けのテンションってのはそう長くは続かないのだ。

 まもなく夜のオアシスにたどり着いた俺達は、水と緑溢れる場所にテントを張ることにした。

 やっと寝られるわ。俺は飯を食うことも忘れ、いそいそと寝袋にもぐりこむ。


「もうまじ無理。寝よ」


「は、はい。あの、種馬さま……」


「ん?」


「あ、いえ……おやすみなさい、です」


「おやす」


 オルたそはなにやらもじもじしているが、それを追及する気力も今の俺にはない。

 これは予想だけど、彼女はやっぱり俺に手を出されたいのだろう。残念ながらそれは明日以降に持ち越しだ。


 色々考えたいことは山ほどあるが、頭が回らないことには何をやっても意味がない。

 そもそも俺の場合考えることに意味がない。


 俺は今度こそ、深い眠りに落ちていった。

 そして夢を見た。

 これからの未来を決定づける、不可思議にして意味深な夢を。

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