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ほんとに空いてないの?

 しばらくは会話がなかった。

 オルタンシアが何を考えているかはわからないが、好んで喋るタイプでもないのでこんなものなのかもしれない。


「種馬さま」


「ん?」


 オルタンシアはもじもじしながら。


「もうすぐ渓谷を抜けます。近くに宿がありますから……その、今夜はこのあたりで休みませんか?」


「そうだな。流石に眠たくなってきたもんな」


 夜も更けている。深夜も深夜。睡眠をとっておかないと明日に響く。

 急いでいるとはいえ、まったく休まないというのも問題だ。


「宿か。街でもあるのか?」


「そういうわけではなくて。砂漠の入口に宿を建てているんです」


「なるほど。砂漠を越える人向けってわけだな」


 俺の腕の中で頷くオルタンシア。

 あれからずっとお姫様だっこの状態だ。俺が強くなっているのと、オルタンシアがとても軽いおかげで、腕の疲労はない。足腰の疲労もだ。だけど眠たいものは眠たい。スタミナはついても、睡眠は欠かせないのは、俺が人である証拠だろう。

 まもなく宿にたどり着く。

 石造りの大きな建物が渓谷の一角にぽつんと立っている。


「ここか」


「あの、種馬さま。そろそろ下ろして頂くことは、できませんか?」


「ああ。そうだな」


 俺としてはずっとこのままでもよかったが、まあ仕方ない。強制はだめだね。


「こちらです」


 だっこを解除されたオルタンシアは、宿の扉をくぐる。

 後ろについて中に入ると、いくつかの燭台に火が灯っており、煌々と室内を照らしていた。


「おんや? オルタンシアじゃないか。もう戻ってきたのかい?」


 ふくよかな中年女性が大きな声で迎えてくれる。

 オルタンシアはぺこりと一礼した。


「うしろの色男さん、見ない顔だね。もしかして、ついにあんたも性奴隷をゲットしたってのかい?」


「あ、いや……」


 威勢のいいおばさんに、気の小さいオルタンシアはろくな会話もできていない。

 仕方なく、俺が口を開いた。


「こんばんは。俺はロートス。グランオーリスまで行くのに、オルたそに案内をしてもらってるんだ」


「ああ! なんだそういうことかい。あたしゃてっきり種馬かとおもっちまったよ。この早とちりする癖を直さなきゃいけないといつも思ってるんだけどねぇ」


 種馬呼ばわりされているのは間違いじゃないけどな。


「宿泊かい? あいにく今は一部屋しか空いてなくてね。一応二人部屋なんだが、どうだい?」


 どうだいって聞かれても、空いてないなら一部屋にするしかないだろ。


「俺は別に構わないけど。オルたそは?」


「え、あの。自分は外でも……」


「それはだめだろ」


 おばちゃんはわざとらしい咳払いを放つ。


「いいかいオルタンシア。ジェルド族たるもの、こんなおいしい機会をみすみす逃すなんてあっちゃいけないんだよ。あんた、今まで女王様に何を教わってきたんだい」


「す、すみません」


「しっかりしなよ。世話の焼ける」


 男に抱かれないと叱られるってのもなかなかハードな文化だよな。

 民族繁栄のためには仕方ないというか、合理的な考えなんだろうけど。


「でしたら、一部屋でお願いします」


 俺をちらりと見て、オルタンシアは顔を伏せた。


「あーい! 二名様ごあんなーい」


 おばさんに案内され、俺たちは最上階の一室に通される。

 こじんまりとした部屋。

 もちろんベッドは、一つしかなかった。

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