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オルたそ~

 しばらく無言で歩く。ちょっと気まずいな。


「なぁオルたそ」


「え? は、はい? オルたそ?」


「ニックネームな。今決めた」


「あ、ありがとうございます……」


「うん。そんで、オルたそってさ。アルドリーゼの従姉妹なんだっけ」


「はい。でも、従姉妹っていっても、自分なんて全然。大したスキルもない小娘ですし」


「そうか? 『インベントリ』ってスーパー便利なスキルだと思うけどな」


「あの……同じスキルを持ってる人が、たくさんいるんです」


「ふむ。そういうことか。それで?」


 言葉を途切れさせたオルタンシアを、相槌攻撃で喋らせよう。


「は、はい。それに、ジェルド族は戦闘に使えるスキルが重要視される文化ですから」


「民族性ってやつかな。分かる気がするよ。オルたそはそういうの苦手なのか?」


「はい。自分は、戦いも狩りも苦手で、だめだめで。なので、軍での役職もありません」


 スキル至上主義といっても、その価値基準は文化によって違うのか。

 そりゃそうだよな。古今東西、価値観ってのは異なるものだ。

 王国では、戦闘だろうと文化的活動だろうと役に立てばすごいとされる。おそらくは、潜在的な経済効果が大きいか否かってところに重きを置いているんだろうな。


 俺が次に何か適当なことを言おうとした、その時だった。


「オルたそ。ちょっと待て」


 俺はオルタンシアの手を取り、立ち止まらせる。


「た、種馬さま……? あ、あの……」


「静かに」


 周囲に視線を巡らせる。


「囲まれてるな」


 暗くて姿は視認できないが、おそらく十体ほどのモンスターに包囲されている。

 迂闊だった。ここまで接近されるまで気が付かなかったとは。


「オルたそ。モンスターに遭遇した時って、どうすればいいとかあるか?」


「い、いつもなら兵士達が対処します」


「こういう時は?」


「女王さまからは、種馬さまにお任せしろとだけ……」


「おっけー」


 モンスター達は少しずつ接近してくる。

 松明に照らされ、その姿が露わになった時、オルタンシアは小さな悲鳴を上げた。


「ジャ、ジャバウォック……!」


 オルタンシアがジャバウォックと呼んだそのモンスターは、俺の身長の三倍はあろうかという巨体だった。鋭い牙が並んだ大きなアゴ。隆々とした二本の腕の先には、長く鋭利ない爪が生えている。逆立ったたてがみと、凄まじい目力を宿した三つの瞳は、まさに魔人と呼ぶに形容するにふさわしい威容だった。

 それが、十体。低い唸り声が近づいてくる。


「オルたそ。こいつらは?」


「渓谷の主と呼ばれる、モンスターです。地上に限れば、あのエンペラードラゴンに匹敵する強さだと……!」


「ふーん」


「は、早く逃げましょう種馬さま……! こんなの、勝てっこありません……!」


「逃げる方が無理だろ」


「そんな……」


 ジャバウォックが、ついに俺達の目の前までやってきた。

 隙間もなく囲まれてしまったようだ。

 ぺたりと、オルタンシアがその場に座り込む。そして、涙目で夜空を仰ぎ、両手を組み合わせた。


「ああ……神様。どうか、どうか憐れな自分を……お助けください……!」


「誰に祈ってんだ」


 オルタンシアの頭を、ぽんぽんと撫でる。


「種馬さま……?」


「ま、見てなって」


 一歩を踏み出し、ジャバウォックの眼前に身を晒した。


「お前らの救世神は、この俺なんだろ?」

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