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オルタンシア

 それから数十分の時間が経過した。

 アルドリーゼのテントの中でごろごろしながら待っていると、入口がばさりと音を立てて開かれた。


「や~い。お待たせ~」


 風呂上りのほかほか感を纏ったアルドリーゼが現れた。後ろに、小柄な少女を伴っている。


「いちお~探してみたけど~。たぶんこの子なら種馬くんの希望に沿えるんじゃないかな~」


 ふむ。

 アルドリーゼの背中に隠れるように立つその少女をじっと見つめてみる。

 年の頃は十代前半といったところか。ジェルド族特有の褐色の肌。紫の髪は、シャギーの入ったベリーショート。細い四肢は未発達な感じで女の色気を感じさせないが、それでも女の子だとわかるほどには肉付きがある。無論、おっぱいもお尻もコンパクトだ。ボーイッシュというより中性的って言葉が似合うかもしれない。

 長いまつ毛に縁取られた金の瞳はどこか不安げで、彼女が内気であることを思わせた。


「しっかしね~。案内人だってのに気の弱い子がいいってどういうことなの~? ふつうしっかりした子を寄こせって言うんじゃない~?」


「気の大きさとしっかり度は関係ないだろ。気が弱くてもしっかりしてる子はしっかりしてる」


「一理ある~」


 俺は案内人の少女に近づき、すっと右手を差し出した。


「ロートス・アルバレスだ。急な話ですまないが、よろしく頼む」


 少女はおずおずと前に出てきて、目を伏せて俺の手を両手で握った。


「オルタンシアと、申します。誠心誠意、案内役を努めさせて頂きますので……何卒よろしくお願いいたします。種馬さま」


 聞いた三秒後には忘れてしまいそうな力のない声だった。思わず聞き返しそうになったが、なんとか聞き取れたのでぐっと我慢する。

 しかし。種馬さま、ね。なんて素敵な呼び名だ。


「その子はね~。いちお~余のイトコなんだ~」


「王族かよ」


「でもあんまり気にしないでいいよ~。ジェルド族の女王は世襲制じゃないからね~」


 なるほどね。血筋じゃなく実力で女王を決めるのか。


「だから~、道中気が向いたら孕ませてあげて~。もう子ども作れる身体だから~」


 いやいや。待てって。

 俺が言うのもなんだが。


「あんまり生々しいことを言うなよ……」


 オルタンシアは顔を真っ赤に染めて俯いてしまっている。そりゃそうだろ。

 会ったばかりの男に孕まされるかも、なんて思わせちゃ可哀そうだろうよ。


「あ、あの……種馬さまさえよろしければ、ぜひ、お願いします。不肖オルタンシア。精一杯、お相手させて頂きます……ので」


 まじか。

 こんな気の弱い子でも男を受け入れる覚悟の言葉を口にするとは。

 文化の違いってやつをまざまざと見せつけられたな。


 うーん。

 ほんとにいいのかな。


「ま~気楽にね~。別に孕ませたらからって夫婦になれなんて言わないしさ~。余たちジェルド族にとっちゃ~子どもが産めるだけ万々歳よ~」


 そりゃまぁそうなんだろうけど。


「そんな余裕があったらな」


 急いでいるのは本当だから、時間の猶予もあまりないのだ。


「早速出発しようと思うけど、準備はいいか?」


「は、はい。いつでも出られます」


「よし」


 俺は気合を入れ直し、自分の頬を叩く。


「サンキュな、女王様。この借りはいつか返す」


「そいつは楽しみだ~。一族が繁栄するね~」


 種馬になることは確定なんだな。

 まぁいいけどさ。


「それじゃ、出発だ」


 グランオーリスまで、超特急で向かうぜ。

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