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そういうことな

「でもなぁ。俺がそんなことするか? 自分の功績を過去に送るなんて」


 過去を改変するってのが目的でもなさそうだし。公開されないなら情報として意味が薄いし。


「やむにやまれぬ事情があったと考えるのが自然じゃろうな」


「やむにやまれぬ事情って?」


「わからんか」


 アカネの真剣な目線が俺を刺す。

 そんなことわかるわけないだろうよ。未来のことなんだから。


「いや……待てよ……」


 エストを消せば、俺がこの世界にいたという痕跡は消えてしまう。エストを消した後に石板を残すことは不可能だ。


「だから過去に? いや、それだけじゃ理由としては弱い。なにか別に目的があってのことか?」


 謎は深まるばかりだな。


「おそらくは、おぬしが忘れられないためのアイデアじゃろう。効果があるかは知らんが、実際この石板はおぬしの生きた証、成し遂げた大業の証拠じゃ。それが時を越え存在し続けることは、世界に対してなんらかの影響を与えるじゃろう」


「なら、これがあれば俺は忘れられずに済むってことか?」


「それはわからん。これは情報の塊ではあるが、物質的にはただの石であることに変わりはない。答えがはっきりするのは、エストを消してからじゃ」


 ま、そりゃそうか。

 世の中そんなに甘くはない。ご都合主義的な展開は現実にはありえないのさ。


「一つ気になったんだけどよ」


「なんじゃ?」


「ジェルド族は、エストを消すことに賛成なのか?」


 俺はアルドリーゼを見る。


「ん~? そうだね~。賛成か反対かって聞かれたら、まぁ反対かな~」


 反対なのかよ。


「でもこの予言を見る限り、エストを倒すのを望んでるみたいな書き方だろ」


「そだね~。でもなんだかんだ言ってスキルって便利だし~。それがなくなるのは困るよね~」


 確かにそれは理解できる。


「けどスキルは呪縛なんだ。人間の運命を縛り付ける鎖なんだぞ」


「ま~ま~そう熱くなんないでよ~。どっちかって言えばってだけで~、正直どっちでもいいんだよね~。スキルがあろうとなかろうと、余たちはその時の状況に適応するだけだし~。最終的には神の決定に従うんだよ~」


 なんだ。そういうことか。


「この国に軍事侵攻した理由もね~、そこにあるんだ~」


「なに? どういうことだ。詳しく聞かせろ」


「王国はね~、力を持ちすぎたから~神の存在をないがしろにしてるんだよね~。建前はエストを崇めていても~、結局はスキルを与えてくれる便利な道具みたいにしか思ってないっていうか~」


 なんとなく言わんとすることは分かる。

 信仰といっても、王国民のエストに対するそれは都合のいいから用いてますって感じに近いもんな。知らず知らずのうちにヘッケラー機関の理念に染まっているから、そういうことになるんだろうけど。


「だから~。余たちはこの国の勢力を削ぎに来たってわけ~。もちろん平和的な手段でね~。やっぱりさ~、人には人の領域っていうか、越えちゃいけないラインってのがあると思うんだ~」


 なるほどな。王国が広めたスキル至上主義による弊害を、ここいらで止めておかないといけないって考えか。

 それについては、俺も同感だ。

 そういうことなら、マッサ・ニャラブ、ないしジェルド族とは、手を結べそうな気がするぜ。

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