蛮族の習わし
女兵士達が、一斉に接近してくる。
俺はアイリスに目配せする。ここで相手を傷つけてしまうと、余計に面倒な事態になりそうだから、何もするなとの合図だ。
しかし不思議なのは、女兵士の誰もが武器を持っていないことだった。迫力はあるが、殺気はない。だから俺もそこまでの緊張感を覚えていなかった。
そして俺は、女兵士達にもみくちゃにされてしまう。
「兵舎に連れ込め!」
「うえっ! ちょっと待てって……!」
体格のいい兵士達に担ぎ上げられ、俺は村に運び込まれる。
どうなってんだこれは。おそらくなんらかのスキルが働いているのだろう。俺はいとも簡単に運搬されてしまっている。
「ご主人様!」
サラの声が聞こえるが、もはや俺にはどこにいるかもわからない。
俺の視界は、女兵士の尻と乳と太ももで埋め尽くされていた。
アイリスがいるからな。サラは大丈夫だろう。
問題は俺だ。
あれよあれよいう間に、俺は野営地のテントに連れ込まれてしまった。
そして、藁の敷かれた寝床の上に放り出された。
担ぎ上げられてからここまで僅か十数秒の出来事だ。
何が何だか訳が分からない間に、俺は女兵士に囲まれてしまう。
「またこんな感じかよ……」
なんか、エルフの里でもこんなことがあったよな。
いい形にしろ悪い形にしろ、女に囲まれてしまうのが俺の宿命なのかもしれない。めっちゃええやん。
とはいえ、俺は別に慌ててはいない。
いざとなればどうとでもなる。何故なら『妙なる祈り』があるからな。
「えーっと……」
しかし、これ一体どういう状況だ?
女兵士達はそれぞれが鋭い眼光で俺を凝視している。だが、特に何をしようというわけでもなさそうだ。拘束されているわけでもないし。
俺を甘く見ているのかもしれない。
「俺の従者達はどうした?」
「知らん。女に興味はない」
予想していたものとは違う答えが返ってきた。
「女に興味ないって……え? どういうこと?」
「小僧。我らジェルド族の習わしを知らないのか」
「まったく」
「ふん。これだから傲慢な王国民は」
なんだかディスられている。
「どんな習わしで、俺は捕まえられたんだよ」
「喜べ。お前はこれから我々の性奴隷となるのだ」
「えっ」
なにそれ。
「喜べって言われてもなぁ……」
数か月前の俺なら諸手をあげて喜んでいたかもしれないけど、今の俺にはやることがある。それを放り出してまで肉欲の虜になりたいとは思わない。
いやいや、数か月前の俺でも別に喜ばないわ。
「捕まえた男を性奴隷にするのがジェルド族の習わしなのかよ」
「そうだ」
「野蛮すぎるだろ」
「……黙れ」
俺の言葉に、女兵士達は気まずそうにしている。
なんか地雷を踏んだっぽい。
誰でもいい。なんか色々説明してくれ。このままじゃどういう身の振り方をすればいいかわからないぞ。問答無用でこいつらを叩きのめしてもいいが、それはそれで後々面倒なことになりそうだし。
そんなことを考えていると。
「我らが総帥! 我らが女王! アルドリーゼ様のおなりである!」
テントの外からそんな声が聞こえてきた。
なんだか、とんとん拍子に事が運んでいる気がする。
こういう時は決まって、嫌な予感がするんだよなぁ。




