朝チュンって
朝チュンとはよく言ったものだ。
だが、目を覚ました俺の隣にアデライト先生はいなかった。
起きたら一糸纏わぬ姿の先生がいる。そんな期待を些かならず抱いていたのだが、その幻想はいとも簡単にぶち壊されてしまった。
ベッドから起き上がり、あくびを一つ。
俺の起床を待っていたかの如く、部屋にノックの音が響いた。
「主様。お目覚めですか?」
「おーう」
寝ぼけ眼で扉を開くと、そこには既に身支度完璧なシーラが立っている。
「おはようございます。主様」
「おはよ」
再びのあくび。
「お休みのところ申し訳ありません。報告が二つ」
「いいよいいよ。中、入るか?」
「失礼します」
シーラを部屋に招き入れ、俺は椅子に腰を下ろす。
「どうぞ」
「さんきゅ」
水筒を受け取り、喉を潤す。
「報告ってなんだ?」
「はい。昨夜、リッバンループで大規模な戦闘が勃発したようです。王国軍と親コルト派が、激突したと」
「リッバンループ?」
たしかあそこには、王国の最精鋭が集められていた。イキールもいた。
対亜人連合の最前線に、親コルト派が攻撃したのか。
まぁ、あの街にはエルゲンバッハもいたし、最初から本命はそっちだったのかもしれない。
「それで、どうなった?」
「両軍ともに壊滅的な損害を受け、ほとんどの部隊が消滅ないし撤退しています。ですが、現在も戦闘は継続しているようです」
夜通し戦っているのに、まだ終わってないのかよ。
「王国の大将軍ムッソーと、親コルト派の英雄エルゲンバッハの一騎討ちになっている模様なのです。その影響で街は崩壊。居住、経済活動ともに困難な状態とのことです」
まじかよ。
巻き込まれた人達が憐れすぎるだろそんなの。
「決着如何では王国の体制が崩れます。そうなれば、世界のパワーバランスにも影響が及びます。今は静かにしているヘッケラー機関も、どう動き出すかわかりません」
「時間がないってことだな」
シーラは首肯する。
「今後、事態がどう転ぶにしても、早いところサラを助けに行った方がよさそうだ」
「同意します。いつまでも機関に渡しておくのはリスキーですから」
なら、一刻も早くサラを助けに行こう。エストを消すとかは、その後に考えたらいい。
「シーラ。サラと仲良くしてやれって話。覚えてるか?」
「しかと、憶えています」
よかった。
「約束してくれ。これから先なにがあっても、サラの友達でいるって」
「……あたしの使命は主様を支え、お守りすることです。それに違えない範囲であれば」
「ああ。それでいい」
シーラが俺のことを忘れても、サラとの繋がりさえ残っていればいい。
俺がいなくなった世界で、みんなが幸せに暮らしてくれれば、万々歳だ。
「それで、もう一つの報告ってのは?」
「はい。所長、いえ、アデライト女史とウィッキー、ソルヴェルーチェ殿の三名が、研究のため学園の施設に籠ると。伝言を頼まれました」




