かなり衝撃的な事実
「帝国は、エンディオーネ様がお作りになった国なのです」
建物を出たあたりで、マクマホンがいきなりぶっこんできた。
「初耳だな」
「そうでしょうとも。他と同じく、秘匿された情報ゆえ」
どうせあれだろ。この世界の真実ってやつだろ。
「一体なんの為に国なんか作ったんだよ」
「『尊き者』をお守りし、その使命の助けをさせる為です」
「助けだ? じゃあなんでサラを誘拐なんかした。俺にケンカ売ってんだろ」
「今の状況を見てもそう言えますかな?」
何を言ってるんだこいつは。
サラを亜人同盟の盟主にしたのは亜人たちだとしてもだ。大魔法の動力源にしようとしていたのは確かだろう。
「サラちゃんが持つドルイドの魔力を使って、王国を崩壊させる。そうやって機関の手先である王国を破滅させ、ファルトゥールの力を弱体化させる。そう言いたいんだよ。この人は」
ルーチェの補足に、俺は溜息を吐く。
「いくらなんでも無理があるだろ。それで納得しろってのか?」
やっぱりこいつはムカつく野郎だ。帝国もな。
「どうかご理解ください。我々も必死なのです。王国には魔法学園を中心にファルトゥールの加護がかけられており、永らく直接的な干渉は一切できませんでした。あなたが学園に入学したからこそ、無欠であった加護に穴が空き、ようやく僅かな隙が見えたのです」
魔法学園が治外法権だったのはそういう理由か。
「それで亜人達を焚きつけたのか」
「迫害されている亜人を救い、王国の力を削ぐ。合理的な手段だとは思いませんか?」
「人道的じゃない」
「承知の上です」
「サラのことも同じか?」
「亜人一人の命と、世界の安寧。天秤にかけるまでもありますまい」
陳腐な問答だな。まったくよ。
「結局お前らの目的はなんなんだよ? 俺の使命を助けるってんならエストを消すことになる。けどそれは嫌なんだろ」
「いかにも。スキルの消滅は世界に混乱を招く。しかしファルトゥールが完全に復活してしまえば、結局はエストの加護であるスキルの存在は抑えられてしまうでしょう。ですから、複数の神による調和を望んでいるのです」
「それがエンディオーネの考えなのかよ」
「わかりません。神の意思など、我々人間に理解できるものでしょうか」
呆れた奴だ。
結局のところ、帝国の独断に近いじゃねぇか。
エンディオーネの目的はエストの消滅と、ファルトゥールの救済。
少なくともあいつの言葉を鵜呑みにするなら、そんな感じだろう。
あいつはあいつで情報を小出しにするし、言葉足らずだから、はっきりとはわからないけどな。
「聞きたいことがある」
「どうぞ」
「俺の『妙なる祈り』の影響を受けた奴に心当たりはあるか」
俺に質問に、マクマホンは足を止める。
「……やはりエストを消滅させるおつもりですか」
「当然だろ」
「考え直してください。いいことなど一つもありませぬ」
「運命を縛られたままじゃ本当の自由とはいえないだろうが」
「それはあなた個人の思想であって世の真理ではない。世界の人々にあなたの考えを押し付けるおつもりですか」
「そうだよ」
そんな葛藤はとっくに終わってんだ。
エゴと言われたって、俺は人々を固定化された運命から解放する。その結果、世界のバランスが崩れてもいい。崩れたバランスは一時のものだ。
「承服しかねます。我々の役目は『尊き者』をお守りすることでもあります。エストが消滅すれば、同時にあなたという存在もこの世から消え去る」
は?
なんだって?
「痕跡すら残らず、あたかも最初からいなかったかのように、世界から忘れ去られる。そんな結末は、看過できませぬ」
「……なんだよそれ」
一体、どういうことなんだよ。




