それがどうした
「そんなの、どうやったらわかるんだ?」
「それは……」
ルーチェはそこで口ごもる。
それがわからないなら、どうしようもない。
「あ、もしかしたら」
どうした。
「あの帝国の大臣なら、何か知ってるかも」
「マクマホンか?」
「そう」
まぁ、ダメもとで聞いてみるのもありかもな。
帝国なら、俺たちの知らない何かを知っていてもおかしくないし。
「やってみましょうよ。今はどんな小さな可能性にもかけるべきだわ」
エレノアもこう主張している。
ルーチェは胸元のアイテムボックスを弄ると、部屋の中心にマクマホンを出現させる。
「な、なんだ……」
尻もちをついたマクマホン。状況が理解できていないようだ。
「なんだ貴様たちは……ここは、一体」
「落ち着け」
俺はマクマホンの腹に一発お見舞いする。苦悶の声を上げて悶絶するが、今は気に病んでいる場合じゃない。
「ロートス……それはちょっと」
エレノアが引いている。仕方ないだろ。急いでるんだ。
「聞きたいことがあるんだけど」
マクマホンの胸倉をつかみ上げる。
「な、なんだ……!」
「俺の『妙なる祈り』の影響を受けたかどうかって、どうやったらわかる?」
「は? 何を言って……まさか、エストを消滅させようというのか! そんなことすればスキルがなくなり、世界に混乱が訪れるぞ! 断じて許容できん! 世界の秩序を守るためにも、考え直し――」
よく喋る口だなクソが。
「聞かれたことだけに答えろ」
振り上げた拳。それを制したのはウィッキーだった。
「やめるっすよロートス。そんな乱暴な真似をしなくても、情報を聞き出す方法はあるっす」
「……どうするんだよ」
「これっす」
ウィッキーの手のひらに、黒い球体が生まれる。『ツクヨミ』だ。
「そっちの方がよほどえげつない気がするんだが」
「少なくとも野蛮じゃないっすから」
ウィッキーは躊躇なく『ツクヨミ』を放ち、マクマホンの精神を時の彼方へ連れて行った。目の開いたまま停止しているマクマホンの姿は、なんというか不気味だった。
「ふんふん。なるほどっす」
ウィッキーがなにやら頷いている。今まさに情報を聞き出しているということだろうか。
「おっけーっす。なにもかも吐いてくれたっすよ」
指で丸を作るウィッキー。直後、マクマホンは気を失って倒れ伏した。
一瞬で終わったなぁ。そりゃ、『ツクヨミ』の中は時間の流れが遅いからな。こっちからすれば短くて当たり前か。
「それでウィッキー。どんな情報を得たのですか?」
先生の問いを受け、ウィッキーは得意げな笑みを浮かべる。
「意外と簡単だったすよ。ロートスの運命に深く関わっていると『妙なる祈り』の影響を受けていることになるらしいっす。言うなれば、ロートスに人生を狂わされた人達ってことっすね」
間違っちゃいないんだろうが、言い方に悪意あるだろそれは。
ふーむ。ちょっと深呼吸。
俺は気を落ち着ける。ちょっとイラついていたかもしれない。
「えっとっすね……『妙なる祈り』の影響を受けた者は、祈りの発信元に強い感情を向けるようになるらしいっす」
「強い感情ってなんだ?」
「つまり……ロートスを好きになるってことっすよ」
ああ。それか。
いつか先生が言っていたな。好意を抱いたのは、俺の運命に引き寄せられたせいかもしれないと。やっぱりあれは真実だったんだな。
分かっていたことだけど、残念だ。
「それでしたら、私ですね」
何の負い目もなさそうなにこやかさで、アデライト先生が手を挙げていた。




