ジェミニ
やばい。あの攻撃に対して、俺は抵抗する術を持たない。
避けられるか? いや、一度や二度避けても同じだ。いずれ当たっちまう。
「フレイムボルト!」
エレノアが放った魔法が、大鎌を弾き、軌道を逸らしてくれる。
「待って。話を聞いてちょうだい!」
エレノアは女神像の前に立ち、声を張り上げる。
〈話すことはない〉
「いいえ。私にはある」
おい、エレノア。
「復活するのなら、サラって子じゃなくて私の身体を使えばいい!」
何を言ってるんだ、お前は。
「私には『無限の魔力』があるわ。十分満足できるはずよ」
〈紛い物の穢れを纏った肉体など〉
「何言ってるの。このスキルをくれたのはあなたじゃない」
〈我ではなく、我のしもべ達だ〉
「同じでしょ」
〈貴様を器にするつもりなら、最初からそうしている〉
「どうしてそこまでサラって子にこだわるのよ。ドルイドの血統っていうのがそんなに重要なわけ?」
〈そうだ〉
「どうして」
〈貴様らがドルイドと呼ぶそれは、古代人と結託し我から神の純血を簒奪した愚かな一族。亜人の始まり。その血はもとは我のものだったのだ。取り返すのは当然〉
なんだって。
ドルイドが、神の血の簒奪者だと。
「そういうこと……だから亜人はスキルを持たないのね。どれだけ薄まっても、身体に流れるあなたの血がエストの呪いを弾いていしまう」
〈わかったか。貴様がいくら魔力を持とうと、我の器にはなりえぬ。貴様はもう不要なのだ〉
「そこをなんとかならない?」
〈ならぬ〉
待て待て。ちょっと待て。
「エレノア、血迷うなって。お前がサラの代わりになることはないんだぞ。何を考えてるんだよ」
「でも私、約束したもの。あなたの大切なものを守るって」
「だったらまず自分を大切にしろ」
あの時、俺の大切な人の中に自分が入っているのかどうか確認したのは何の為だったんだよ。ただ満足するだけじゃ意味ないぞ。
〈話は終わりだ。揃って死ね。アルバレスの御子とそのつがいよ〉
宙に静止していた大鎌が再び揺らめく。
そして、俺めがけて飛んできた。
やばい。この距離じゃエレノアの魔法も間に合わない。
「どーん!」
舌足らずな声。
それと共に飛来したもう一振りの大鎌が、ファルトゥールの大鎌とぶつかってどちらも砕け散った。
「やー、参った参った。この場所の結界を解くのに手間取っちゃってさー」
〈……エンディオーネ〉
後ろから、エンディオーネがブーツの底を鳴らして現れた。
見れば見るほどファルトゥールの像とそっくりだ。
「いい感じに狂っちゃってるね。おねーちゃん」
なんとなくそんな気はしていた。
女神ファルトゥールと死神エンディオーネは、双子の姉妹だったのだ。




