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ちょうどいいくらいのチート

 それはともかく。


「これは全員が揃ってから説明しようと思ってたんだけど、いつまでも待つのもタイミングを逃しそうだから、ひとまずここにいるみんなに説明しておく」


 俺が言うと、場の視線が一気に集まる。


「何のことだ?」


 フィードリットが怪訝そうに眉をひそめた。


「俺のチート能力についてだ」


「チート?」


「ああ。今この街で起きてるスキルと魔法が一切使えなくなる現象。実はあれ、俺の能力なんだ」


「なんだと?」


 驚きも無理はない。

 手に入れた時は俺も驚いた。


「ロートスさんの力とは? それはスキルなのですか?」


「いや、たぶん違うと思います」


 先生の問いに、俺は首を横に振る。


「じゃあ、神族の権能? 私みたいな」


「近いんだろうけど、厳密にはそれも違うと思う」


 たしかにルーチェの力はスキルでも魔法でもない。それがどんなものかは詳しく知らないが、なんとなく俺の力とは異なる感じを受ける。


「俺も一から十まで理解してるわけじゃない。分かっているのは一定範囲のスキルと魔法を使えなくするってことと、対象を任意に設定できるってことくらい」


「他人のスキル発動に干渉する能力など聞いたこともない。それに王都全体に及ぶ範囲となると、冗談抜きで凄まじいぞ……」


 フェザールの言う通り、俺もこの力はやばいと思う。


「だからあの時、アイリスがスライムに戻ったのね……」


 エレノアがアイリスを見ながら、複雑そうな表情で呟いていた。

 先生は元の形に戻った耳を撫でていた。


「婿殿。そんな力があるならどうして最初から使わなかったのだ」


「使えるようになったのは最近なんだよ。この前リッバンループで使えるようになったんだ」


「なにかきっかけが?」


 先生は研究者の顔をしている。


「あの軍人、エルゲンバッハと戦っている時に急に使えるようになったんです。エンディオーネっていう神族がくれたっぽいんですけど」


「エンディオーネ様にそんな力はないと思うけど……」


 ルーチェの言うこともわかるが、そもそもあいつも謎な存在だからな。

 何があっても不思議じゃない。

 その時、ルーチェのメイド服のスカートの中から光が放たれた。太もものベルトに付けていた念話灯が着信したようだ。


「もしもし? え? 学園だけど……こっちに向かってる?」


 なんだなんだ。

 ルーチェは真剣な表情でこちらを見る。


「ウィッキーから。敵が一人こっちに来てるって」


 ひとり?

 ふむ、とフェザールが息を吐く。


「間違いなく『体力』のミーナだな」


「どうしてここに来るんだ?」


「塔に関係しているのかもしれん」


 そう考えるのが自然か。

 いつの間にかルーチェはウィッキーとの通話を終えていた。


「ウィッキー達もこっちに向かってるって。どうする?」


 どうするべきか。


「ねぇ。やっぱり私達も行きましょうよ」


 エレノアはどうしても塔が気になるみたいだな。


「仕方ない。とりあえず様子見だけしてみよう。アイリス」


「はい。お供いたします」


 戦力的にアイリスは外せない。


「他に誰か行きたいか?」


「では私も」


 名乗りをあげたのはアデライト先生だ。

 先生がいてくれたら心強い。


「じゃあ、他のみんなはここでサラを見ていてくれ。何かあれば念話灯で連絡する」


「心得た。婿殿、アディを頼むぞ」


「任せてくれ。必ず守るさ」


 守ってもらうのは俺の方かもしれないけどな。

 俺とフィードリットのやりとりにエレノアがむっとしていた。


「ほら、早く行きましょう。先生もニヤけてないで」


「ニヤけていません」


 真偽のほどはともかく、俺達は学園の講堂前広場に向かう運びとなった。

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