モノホンの女神
「ところで、当のサラちゃんはどこにいるのですか?」
あ、そうだった。
「ルーチェが持ってるアイテムボックスに収納してるんだった」
「アイテムボックスに? なんだかかわいそうですね」
「ですね……仕方なかったとはいえ……」
ルーチェと別れる時に受け取っておけばよかった。まぁ、あの時はすぐ合流できると思っていたし、なにより焦ってたからな。
後悔先に立たず。
「先生。サラを治す方法はあるんですか?」
「あります。然るべき設備があれば、彼女の魔力を体内に戻すことは簡単でしょう。ですが」
「ファルトゥールが憑依する可能性があるってことですか」
「そうなんです」
先生は眼鏡の位置を直しながら、
「いつどのようなタイミングで降臨するかはわかりません。けれどサラちゃんの状態を聞く限り、その時は迫っているといえるでしょう。意識的か無意識的か、サラちゃんはそれを感じ取ったのです」
「なら、サラを助けるにはどうすればいいんですか」
エストと一緒にファルトゥールも消滅させるか。そんなことが可能なのか。
後から人の手によって作られたエストと違って、ファルトゥールは正真正銘の神様らしいし。
「あの、ちょっといいかしら?」
発言の主はエレノアだ。
「できればなんだけど、女神様に直接お願いしてみればいいんじゃない? サラちゃんに乗り移らないでくださいって」
「それも一つの手ですね」
先生は頷く。
言わんとすることはわかるけど。
「どうやってそれを伝えるんだよ。俺は神と交信なんかできないぜ」
「それは私にもわからないけど……でも私、女神ファルトゥールに会ったことあるし」
「なんだって?」
おい。一体どういうことだ。
「え、ロートスだってあるでしょ? この世界に来る時、女神様に会ったって言ってたじゃない」
「俺が会ったのはエンディオーネだ。ファルトゥールじゃない」
「ええ? おかしいわね。きわどい格好の女の子でしょう?」
「大鎌を持った?」
「そうそう」
話がかみ合わないぞ。これは何事だ。
エンディオーネとファルトゥールは同一の存在なのか?
それとも見た目が似ているだけの別物?
「エレノアちゃん。女神ファルトゥールは、あなたになにかを伝えましたか?」
「は、はい。今でも夢に出てきたりしますし」
なんだそりゃ。
まぁ俺もちょくちょくエンディオーネと会ってるけど。
アデライト先生の質問に、エレノアは顎を押さえて記憶を探っている。
「真実こそ至高。虚偽は害悪なり。根源は永遠。補完は僭越なり」
うーん。わからん。
「それだけですか?」
「はい、これだけです。私もあんまり意味が分からなくて、気にしないようにしてたんですけど……」
「今までの話を踏まえれば、なんとなく解釈はできそうですね」
確かに。
「ここでいう真実、根源とは。女神ファルトゥール、あるいはこの世界そのものを指すのでしょう。対して虚偽、補完とは、後付けの神であるエスト。そしてエストの働きに支配された現在の世界体系のことでしょうね」
ふむ。つまり。
「女神ファルトゥールは、自分の復活のためにエレノアを召喚したってことか」
「そういうことになりますね。さらに言えば、機関を裏で操っているのは女神ファルトゥールであるとも取れます。眠りについた状態では、直接世界には干渉できませんから、機関がその手足となっているのでしょう」
半端ないな。
じゃあなんだ。
そうなると、エンディオーネってマジで何者なんだよ。
次の瞬間、研究室の扉が開いた。




