俺の心は俺のもの
アデライト先生とフェザールが揃って目を見開き、俺を見た。
「エストを消滅? どういうことだ。詳しく説明してくれ」
「ええっと」
俺は神族会議での出来事を思い出しつつ、言葉にする。
それを聞き終えた二人は、それぞれの反応を見せた。
「君という男は……いつも俺の想像を超えてくれるな……」
それは褒めているのか呆れているのか。両方か。
「エストを排除する行動それ自体は、プロジェクトに組み込まれていたでしょう。ですがそういった運命を具体的に操作することは不可能です。破棄されて以降、マシーネン・ピストーレ五世の干渉がなかったことを考えると、今回の行動はロートスさん個人の意思から生まれた結果です」
「俺自身の」
「そうです。それどころか。今までロートスさんが自発的に行った全ての行動は、紛れもなくあなた自身の意思から生まれたものでしょう。プロジェクトの仔細を知り、分かったのです。『ホイール・オブ・フォーチュン』は決して万能ではないと」
まじですか。
じゃあ、俺がこれまでやってきたことは、まるっきり操作された運命というわけじゃないんだな。
それは、嬉しいな。それ以外に表現のしようがないくらいには、嬉しい。
もちろん、操作された運命に影響を受けているってのは多分にあるんだろうけど、それでも完全に決められたわけじゃないってだけで十分だ。
俺の心は、間違いなく俺のものなんだな。
その確証が得られただけでも、最高に報われた感があるぜ。
「でもそうとなると、マシなんとか五世はエストを消滅させようとしていないってことなんですか? エストからの脱却が目的なのに?」
「そうだな。今のところは」
フェザールが腕を組む。
今のところはってどういうことだ。
「エストの排除は確かにプロジェクト・アルバレスの目的の一つだが、目指すところはそれだけじゃないんだ」
「まだ何か狙いがあるってのかよ」
「そうです」
アデライト先生が答える。
「そこで、もう一つのプロジェクトに繋がるのです」
プロジェクト・サラ。
そうだ。
これが一番の謎なんだ。
プロジェクト・アルバレスについてはちょっとずつ情報が手に入っていた。けど、サラについてはほとんど何もわからない。
「プロジェクト・サラは、ドルイドの血統を持つ娘を女神の依り代とする。一言で言えばそういう計画です」
女神の依り代とな。
「もしかして、ファルトゥールってやつですか。この世界を創ったっていう」
「ロートスさんもすでにご存じでしたか」
先生はもはや驚かない。
「仰る通り、母なる創世の女神ファルトゥールを現世に復活させる。それがプロジェクト・サラの目的なのです」
何度も言うが、ふざけてやがるな。
神を超越するとか女神を復活させるだとかなんだか知らないが、人の迷惑ってものを考えろよ。




