プロジェクトの真相
「その女のことなら俺も知っている」
フェザールが頷く。
「だが、今の話を聞く限りでは心配はいらないな」
え。どうしてそうなる。
かなりやばいんじゃないのか。
「いくらミーナという女がすごかろうと、攻撃担当の男二人がいなければシーラが傷つくことはない。大方、無尽蔵の体力のせいで戦いが長引いているだけだろう」
なるほど。そういうことか。
「娘とは後で会うのを楽しみにしておこう。それよりも今は、プロジェクト・アルバレスとプロジェクト・サラの話をするべきだ」
「ええ。そうですね。決してのんびりしている余裕はありませんが、それでもこれだけはなによりも早くお伝えしなくてはならないでしょう」
アデライト先生が頷く。
先生は腰を下ろしていた椅子に浅く座りなおし、エレノアをじっと見て、それから俺に視線を移した。その目が何を思っているのか、今の俺にはわからない。
「プロジェクト・アルバレス。ヘッケラー機関による神を超えるための実験。最高神エストへの挑戦。その計画の全容がついに分かったのです。それらをすべてお話します」
唾を飲み込む音がこんなに大きく感じるとは。
俺とエレノアがこの世界に来た理由。それがやっと明らかになるのか。
「プロジェクト・アルバレスのこと。エレノアちゃんは、どこまでご存じですか?」
「えっと……ロートスが知ってることなら、ぜんぶ教えてもらいましたけど……」
「よろしい。では改めて説明する必要はありませんね」
咳払いのあと、先生は意を決したように語り出した。
「プロジェクトの目的は、最強の人間を造り出すこと。そしてそれは機関の存在意義でもあります。あなた達の運命は苦難の連続になるようにマシーネン・ピストーレ五世によって操作され、エストの意思とは無関係にスキルを付与された。これがいったいどういうことか、わかりますか?」
まったくわかりません。言葉通りにしか受け取れない。
まだなにか隠されていることがあるってのか。
「私たちは、エストの加護を十全に享けていない。ということですか」
エレノアが呟くように答えた。
「ご名答。さすがはエレノアちゃんです」
「どうも」
照れ隠しなのか、エレノアはぶっきらぼうだった。
「エストの加護。それはある意味呪いであり、スキルと職業によって固定化された運命で人生を縛られていると言っても過言ではありません」
先生は続ける。
「そしてスキルとは万人に付与されるもの。鑑定の儀を経ずとも、十三歳になれば自ずと手に入る力です。つまり、この世界の誰もがエストの呪いからは逃れらない」
「そんな……」
エレノアがショックを受けるのも仕方ない。
「その呪縛から人類を解き放とうとしたのがヘッケラー機関なのです。そしていつしかプロジェクト・アルバレスというものを計画した。人為的に運命を操作することでエストに縛られない人間を生み出そうとしたのです。それが、エレノアちゃん。あなたです」
「わたし……ですか?」
自分を指すエレノア。
「そう。そしてその副産物として意図せず生まれたのが、ロートスさんということらしいのです」
なるほど。
だからマシなんとかは俺のことを失敗作と呼んでいたのか。
「ロートスさんにアルバレスの姓がつけられたのは、本命であるエレノアちゃんを隠すためでしょう」
つまり俺は囮ってわけだな。嫌味ではなく、上等だ。俺の存在そのものがエレノアを守っていたということだからな。
「ですが」
アデライト先生はそこまで言って、唐突に言葉を切った。
俯いてしまい、続きを話そうとはしない。
どうしたのだろう。




