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チート

 そうと決まれば話は早い。

 凄まじい速度で王都を目指した俺達は、まもなくして高い城壁を捉えた。


「王都、見えたっす!」


 ウィッキーが叫ぶ。

 城壁周辺には多くの屍が転がっている。空から見下ろしてもわかるほどだ。

 だが、戦いの行方まではわからない。


「状況はどうなってる?」


「戦闘は街の中で行われているようです。親コルト派が目指すのは王城でしょう。狙いは王族と有力貴族。そこを押さえれば、国は盗ったも同然です」


 シーラが冷静にものを言う。


「なら、先生達も城を守ってるってわけか」


「おそらくは」


「よし。そのまま城の上まで行けると思うか?」


 王都上空で空戦を繰り広げる連中を見据える。

 竜や怪鳥、それに乗る騎士、あるいはスキルや魔法で飛行する者達が、制空権を奪い合っている。


「行くだけなら行けそうだけど……」


 エレノアが俺の袖を掴む。


「エンペラードラゴンの巨体じゃ、いい的だ。アタシらを乗っけてんだ。すぐに撃ち落されちまうぜ」


 たしかにマホさんの言う通りだ。

 だけど、一瞬でもあの場所に辿り着ければ問題はない。

 王城は王都の中心にある。それが重要なんだ。


「アイリス」


 俺の呼びかけに、アイリスが分厚い鳴き声で応える。


「よし。みんな、詳しく説明している時間はない。空中に放り出されたら、アイリスの上に着地するんだ」


「え? どういうことっ――」


 ルーチェが言い終える前に、アイリスが急加速を行う。

 俺達は瞬きする間もなく、王城上空に到達。

 空戦を展開していた連中が一斉にこちらを意識する。


 いきなり現れたエンペラードラゴンに、誰もが驚愕しているようだった。

 隙はこの一瞬しかない。


「いくぜ」


 悪いけど、チートを使わせてもらう。

 今の俺にできる最大出力だ。


 俺の体から、球形の波動がほとばしる。それは王城を呑み込み、それだけではなく王都全体にまで及んだ。

 その瞬間、王都で使用されていた全てのスキル、魔法が使用不可となる。

 スキルや魔法によって飛行していた者は地上へ落下していく。

 そして、『千変』によって変化していたアイリスもまた、ドラゴンからスライムの姿に戻ってしまう。それはつまり、飛ぶことができなくなり、落ちるということだ。


 エレノアとウィッキーの叫び声がこだまする。

 シーラ達守護隊とマホさんは冷静だ。

 ルーチェは持ち前の権能で浮遊し、落下する俺達についてきていた。


 事前に言っておいてよかった。慌てながらも、みんなアイリスの上に落ちる。スライムならではの弾力が、墜落の衝撃を緩和してくれる。

 このあいだ撃ち落された時とは違う。

 全員が揃って無傷で、王城の庭園に辿りつくことができたのだった。

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