ひとつの時代が終わる
女神ファルトゥール。
正直あまりよく知らない。エレノアの口から何度か聞いたことがあるが、それ以外には耳にしない名である。すごいマイナーな神なんだろうな、たぶん。
「ファルトゥール? なんですか、それ」
ルーチェが疑問を口にする。
「アタシもあんまり知らねぇんだわ。名前は聞いたことあるけどな」
マホさんもエレノアから聞いたんだろう。
となると、二人とも知らない女神ってことなのか。
「エンディオーネ……どこでその名を」
白髭はすごい驚いていた。かなり狼狽している。
「まーまー最後まで聞いてよ」
エンディオーネは続ける。
「女神ファルトゥールは、この世界を作り出した創世神。神族が人工的に作りだしたエストなんかとは違って、正真正銘の母なる女神なんだよ。でも、みんなも言ったように、今ではその名前を知ってる人はほとんどいない。むかしむかしに忘れ去られちゃった女神様なんだー」
創世神だって? 超大物じゃねぇか。
「忘れ去られちゃったから、力を失って眠りについちゃったんだね。というか古代人にむりやりそうさせられたんだけど」
「古代人? なんでそんなこと」
「そりゃもちろん、ファルトゥールに代わって世界を支配するためだよ。そして古代人は神族を名乗り始めて、一時代を築いたってわけ! ま、それも今の人間が出てきて引っくり返されちゃったけどね」
神族ってのは、世界を創った神になり変わったただの人間ってわけか。
「でもこのことを知ってるのはおじいさんだけ。ほかの神族は誰も知らなかった。だってとっても昔のことだから、伝わってなくても不思議じゃないよね。だから、エストを消せばどうなるか。それもわかっていなかったんだー」
「エストを消せば、その女神が復活するのか?」
「そゆことー。だからおじいさんは親コルト派を使って工作を仕掛けたの。よーく考えてみて? 親コルト派は、神族の他に誰を狙ってる?」
俺は記憶をたどる。
「たしか、ヘッケラー機関とそれに従う王国政府、それに帝国だったか。それがどうしたんだ?」
「あ、そっか」
ルーチェが呟く。
「エストの存在やはたらきを、よく思わない人達」
「だいせいかーい! ルーちゃんに花丸あげちゃうー!」
なるほど、エストの敵を倒してるってことか。
「おじいさんは上手いことやって、エストの時代を存続させようとしてたんだねー。やー狡いよー」
「つまりなんだ。俺達は、神族と女神の覇権争いに巻きこまれたってわけかよ。それ、まじなのか」
俺は白髭に問う。
「ほっほ。そこまで知られてしまっては、仕方ないの」
「じゃあ……」
「すべて真実じゃ。お前たちはわしの計略にまんまとひっかかったのじゃよ」
「……てめぇっ!」
俺が怒声を飛ばした瞬間。
白髭の頭部が胴体と離れた。
「え――」
エンディオーネの大鎌が、白髭の首を刈り取っていたのだ。
「もう死んでいーよ、おじいさん」
白髭の首は、宇宙空間に消えていく。体は崩れ落ち、魔法陣と共に消滅した。
「これで、現実のおじいさんも死んだはずだよ」
いきなりの出来事に、俺は絶句した。マホさんもルーチェも同じく。
「いや。いやいや、まだなんかあっただろ。情報を聞き出すとか」
「あたしが全部知ってるからだいじょーぶだよー。生かしてたのは、この説明をロートスくんに信じてもらうためだったから」
「それにしたって」
ショッキングな光景だったな。
「でも、おじいさんがいなくなっても親コルト派は止まらないと思う。王都に行くなら急いだほうがいいよ」
そうだ。クーデターをするとなれば、王都は一番の戦場になるはず。
こうしちゃいられないぞ。
「頑張ってねロートスくん。じゃあまたすぐ会おーねー。ばいばーい」
「あ、おい! 待てって!」
俺の制止も聞かず、エンディオーネは消えていった。
ううむ。
終始あいつのペースだった。
果たして、信用していいものか。




