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神を超越した日

「というわけでよ。一応言っとくぜ」


 いま俺は最高に不敵な笑みを浮かべていることだろう。

 人生でこれほど不敵な笑みを浮かべたことがないってくらい、不敵な笑みを浮かべているはずだ。


「お前らじゃ俺達には勝てねぇ。尻尾を巻いて逃げたらどうだ?」


 完全にイキった発言だ。

 チートを手にしたんだから、やっぱりちょっとはイキらないとな。


「おい。舐めるなよ小童が……」


 エルゲンバッハの眼光が俺を射抜く。

 その目は英雄の名に恥じない強烈さを放っている。目線だけでドラゴンを殺せるんじゃないかと思うほどおっかない。


「ザコ一匹倒したくらいで図に乗るな。某の『激震』で瞬殺してくれる」


「試してみろよ、おじいちゃん」


「後悔するなよッ!」


 エルゲンバッハの筋肉が隆起し、軍服の上着をビリビリに引き裂いた。

 それに慄いたのは周囲の兵士と冒険者たちだった。


「まずい……!」


「大尉! こんなところでそれを放っては!」


「全員退避しろ! 巻き込まれるぞ!」


「姉さんを連れて逃げるんや! はよ!」


「うわぁ! たすけてくれぇっ!」


 阿鼻叫喚だ。まだなにも起こってないのに。


「ふん……羽虫どもが……」


 エルゲンバッハは味方を巻き込むことなんかお構いなしにスキルを発動する気だ。


「なぁ、やめといた方がいいんじゃ」


「ほざけっ! 今更もう遅い!」


 俺の忠告は完璧に無碍にされてしまう。


「これがエンペラードラゴンの群れを一撃で葬り去った、『超激震波』だッ!」


 すごい大声をあげて、エルゲンバッハが両手を向けてきた。

 そして裂帛の気合と共に、エルゲンバッハの『超激震波』とやらが放たれる。


「……え?」


 はずだった。


 『超激震波』は不発に終わっていた。

 エルゲンバッハは大声を出しただけで、他に何も放っていない。


 逃げ出そうとしていた奴らも、戸惑うばかり。


「な、なぜだ。なぜ撃てぬ!」


 そりゃそうだろ。


「言ったじゃねぇか。俺は神を超越したって」


「なにを……」


「スキルを封じることくらい、わけないってこった」


 その瞬間、アイリスの拳がエルゲンバッハに打ち込まれる。

 これで決まると思ったが、その拳はエルゲンバッハの掌によって止められていた。


「へぇ? すげぇな。アイリスのパンチを止めたのか」


 びっくりだ。このおっさん思ってたより強い。

 というか、半端なく強い系の人種だ。


「舐めるなと言ったはずだ……! このエルゲンバッハ、たとえスキルを使えずとも貴様らのような有象無象など問題ではない!」


「しゃあねぇな」


 ここで出し惜しみして手こずる余裕はない。


「もう入ってこれるだろ! 全員でやっちまえ!」


 俺の合図が引き金となって、部屋の壁と窓と天井がぶち破られた。守護隊のお披露目だ。

 スキルによって封鎖されていた一室は、もうただの部屋に戻っている。

 シーラ達十数人の守護隊が、一斉に部屋に突入した。


「なんだと!」


 守護隊の一人が放った魔法がエルゲンバッハに直撃。ダメージは小さいが、動きを止める。その隙にシーラが懐に潜り込み、手にした短剣でエルゲンバッハの首筋を切り裂いた。


「ぐぅっ!」


 咄嗟に首に手を当てて止血しようとするエルゲンバッハの胴体に、次々と魔法の矢が撃ち込まれる。その数は百を超えている。

 さしものエルゲンバッハもこれにはたまらず、ぐらりと体勢を崩した。


 ていうか、まだ倒れないのかよ。


「浅かったか……」


 シーラが悔しそうに呟く。

 そういう問題なのか? あんだけ矢を喰らってるのに。


「なるほど……虫の分際で、ちょっとはやるようだ」


 エルゲンバッハは、まだまだ元気そうだった。

 こいつ、ほんとに人間かよ。

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