明日が本番なんだ
マホさんは建物の壁に背を預ける。
「運命からは逃げられない、ね……だから立ち向かうってのか?」
「そういうことです。立ち向かうことで運命を変えられるなら、俺はそうします。それで苦労したとしても、一生逃げ続けるよりは百倍マシだ」
「大した野郎だ」
誰か一人を想う時、その人が住む場所をも同時に想うだろう。国や世界だって一緒だ。
「家族とのんびり暮らしたいってだけで、世直しにまで手を出すたぁな」
「それほどでも」
「お前さんなら、エストを倒せるかもな」
「頑張ります……ん?」
倒すって、エストを?
「俺がエストと戦うんですか?」
「そりゃそうだろ。他に誰がいるってんだ」
ちょっと待ってくれ。それは聞いてない。
「俺はてっきり、神族達がエストを消してくれるものかとばかり」
「いいか。最高神エストは神族が創り出したモンだ。最初からアタシら神族が手出しできねぇようにされてる。だから今まで放置だったんだよ。エストと戦える奴がいなかったせいでな」
「話は分からなくもないですが……でもエストって運命補強の力そのものですよね? 戦うったってどうやって」
「詳しいことは明日説明があるって言ったろ。まぁ……アタシが知ってる範囲で教えておくとだな。エストには自己保存の能力が備わってる。それをどうにかしねぇことには、消滅させることはできねぇ」
黙って消されはしないってことか。そりゃそうか。
そうでなければ、今まで最高神として君臨してこれたはずもない。
「まぁ、なるようになるか……」
ここまで来たらやるしかないもんな。すでに腹は括ってるんだ。あとはやりきるだけだ。
「ところでマホさん。もう一つ聞きたいことが」
「なんだ?」
「ヘッケラー機関の、プロジェクト・サラって知ってますか? プロジェクト・アルバレスから派生した実験らしいんですが」
「いや、聞いたことねぇな。本部の研究か?」
「みたいです」
「じゃあ分からねぇな。アインアッカ村での研究以外、アタシはほとんど何もしらねぇからよ」
「そうですか」
残念だ。
サラの研究について、何かわかるかもと思ったんだけどな。それについては別のアプローチで考えないといけないか。
とにもかくにも、明日のエストとの戦いに備え、今日はもう寝るしかないか。
アイリスと一緒に、あのボロ宿に帰ることにしよう。
「ロートス」
別れ際、マホさんが俺を呼び止める。
振り返った俺に向けられたのは、マホさんにしては珍しい感傷的な瞳だった。
「エレノアを大事にしてやってくれ。あいつも日々成長しているんだろうが、まだまだ弱っちぃ。お前さんみたいに、芯ができてねぇんだ」
「……わかってます」
改めて言われるまでもない。
俺の家族には、エレノアもちゃんと入ってるんだからな。
「頼むぜ。ロートス」
マホさんの言葉には、どこか寂しさがあった。
神族として長く生きてきた彼女にしかわからない何かがあるのだろうか。
悔やむべくは。
『イヤーズオールドアナライズ』を、マホさんに使っていなかったことだな。




