風呂敷広げすぎた
「なかなか覇気のある方々でしたね」
マホさんのところへ向かう道中。アイリスがそんなことを口にした。
「強そうだったか?」
「もしあのお三方が刺客でしたら、わたくし一人でマスターを守りきれたかどうか定かではありませんわ」
俺は思わず立ち止まる。
「うそだろ? お前が苦戦するってのか? 相性の悪いスキルでも持ってたのか?」
「どのようなスキルを持っているかまではわかりません。ですが単純な戦闘技術だけをとっても尋常ではないでしょう。それほどの覇気を感じました」
やばいな。
やっぱりA級冒険者ってのはすごいんだな。いや、あの人達がすごいのか?
どちらにしても、敵に回らなくて本当によかったわ。
そんなこんなで宿の裏口に辿り着いた時、マホさんは壁に背を預けて地面をにらんでいた。俺達の気配に気づき、黒い眉をちょいと動かす。
「よう。来たな」
「どうも」
「ごきげんよう、マホさん」
「ああ。あんまり機嫌はよくねぇがな」
壁から背を離し、俺達の前まで歩いてくるマホさん。
「それで、どこに連れて行ってくれるんですか?」
「空の上だ」
「え?」
どういうこと?
もしかしてコッホ城塞か?
と思う間もなく、マホさんの手が俺の額に触れる。
その瞬間、視界が暗転し、あるいは明転し、天地が逆さになった。
上下左右の感覚が消失し、思考が停止してしまう。
額に感じるマホさんの手のひら。それだけが唯一の刺激だった。
どうなってるんだ。これは。いったい。
戸惑っていると、少しずつ平衡感覚が戻ってくる。視覚も同様だ。
どれくらい時間が経っただろうか。多分数秒も経ってない。
感覚が完全に回復した頃、俺が立っていたのは、マホさんの言う通り空の上だった。
「これは……」
空というよりは宇宙と言った方が正確かもしれない。
一面は暗黒で、ところどころに星々が瞬いている。
足元には六芒星が崩れたような魔法陣。
俺は宇宙に立っているのか。
「言ったろ? 空の上だって」
隣にはマホさんが立っている。
だが。
「……アイリスがいない」
「あいつはここには呼ばなかった。お前さん一人しか許可されなかったからな」
「許可だって?」
「そうだ。ここに来るためには、現代に生きる神族の末裔全員の承諾が必要だ」
わけがわからん。
「まあ待ってな。じきに集まるだろうからよ」
マホさんがそう言うなら、おとなしく待つけどさ。説明はそのあとでもいいだろう。
そして、次々と周囲に魔法陣が生まれる。
その数、合計十。
魔法陣の上に、それぞれ人型の光が形成された。
「ほーほっほ。ようこそ神族会議へ。歓迎するぞよ。ロートス・アルバレスちゃん」
陽気なおじいさんの声が聞こえてくる。
神族会議だと。
ははん。なんかそれらしくなってきたな。




