剛毅やな
「ねぇ衛兵さん」
「なんだ」
「あなた、この『大魔導士』エレノアの名前を知っているかしら」
「え……」
衛兵の顔が強張り、すぐにはっとする。
「もしや、あなたが?」
「そうよ」
会話を聞いていた近くの衛兵たちが、にわかにざわつき始めた。
「おい、『大魔導士』エレノアっていやぁ……」
「ああ。ガウマン侯爵のご令息と共に、カード村で百の亜人軍を撃退した魔法学園の学徒兵だ。このあたりじゃ知らない奴なんていない」
「それに、アインアッカ村の戦いじゃ、あの子一人で数百の敵を相手取ったって聞くぜ。やっぱり神スキル持ちは格が違うってことか」
「ああ、流石は神スキルってことだな。しかし……噂の『大魔導士』があんなにかわいい女の子だったなんてな」
「はは。かわいいっていってもまだ子供じゃねぇか。なんだお前、そういう趣味か?」
「ばっか違ぇよ。客観的な話だって」
「どうだかな」
俺の耳が聞いたのはそんな会話だ。
ほかにも、そこかしこでエレノアの話題が盛り上がっているようだった。
当のエレノアは、真剣な表情で門前の衛兵を見上げたままだ。
「今日の会合にはガウマン侯爵から直々に招待状を頂いたわ」
「は。伺っております」
「もし仮に招待状がなかったとしても、名のある人物だったらこの門を通すようにも言われているわよね?」
「ええ、おっしゃる通り」
「だったら、ここにいる二人を門前払いなんておかしな話じゃないかしら」
そうだろうか。
俺とアイリスは無名にもほどがあるんだけど。
衛兵も俺と同じ考えらしい。
「この者はアインアッカ村のロートスと名乗りました。そのような者は聞いたことがありません。どこの馬の骨とも知らぬ者達を通せば、私が処罰されます」
「私だってつい数日前までは無名の一学生だった。それが、たった二回の戦いでここまで名が通るようになったのよ」
「……ご発言の意図がわかりかねますが」
「たとえ無名でも、私の連れなら中に入ってもいいはずよね」
「それは……しかし……」
まじかよ。
エレノアにしちゃ強引だな。自分の名声にものを言わせて無理を通そうとするとは。
気まずそうに俯く衛兵に声をかけたのは、マホさんだった。
「もし仮にこいつらが名を上げることになったら、お前さん、今日のことを後悔するんじゃねぇか? 想像してみるといい。後の英雄を愚弄した自分の行く末を」
それがとどめとなったのだろう。
「……どうぞ、お通りください」
衛兵は深く頭を垂れ、俺達に道を開けた。
なんとまぁ。
「さぁ、行きましょう」
「あ、ああ」
エレノアに先導され、門の中に進む。
マホさんが溜息を吐いていた。
「らしくねぇことすんなよ。ヒヤヒヤするぜ、まったく」
「ごめんなさい」
ちっとも申し訳なさそうに言うエレノア。
なんというか。
戦いを経て、少し変わったか?
肝が据わったと言うべきか。
この変化、好ましいのかそうでないのか。
今の俺には判断しかねるな。




