こうして今に繋がるんやなって
「マスターに出会った瞬間、わたくしの飢えは一瞬にして満たされたのですわ。飢餓を無効化するスキルは、わたくしにとって究極の慈悲でありました」
クソスキル『ノーハングリー』か。あれは確かに完璧な使いどころだったな。
「その後は、わたくしは永き呪縛から解き放たれ、精神の解放を得たのです。ですからマスターは、わたくしにとって最高の英雄なのですわ」
照れるぜ。
しかし、アイリスにそんな過去があったとはな。
強いわけだ。ただ単に種族として強いわけじゃなく、苦しい境遇を勝ち抜いてきた過去があるからこその力だもんな。
「まぁ、俺のクソスキルが役に立ってよかったよ。ほんとに」
「ふふ」
無邪気に笑うアイリス。
「マスター、わたくしには夢があるのです」
「なんだ?」
「人間になることですわ。姿形を真似るだけじゃなく、本当の意味でれっきとした人間に」
「そりゃまたなんで?」
今のままでも十分な気がするけどな。
「マスターが人間だからですわ。わたくしも、マスターと同じになりたいのです。そして、ずっとお傍にいたいんですの。マスターも、人間の真似をしたスライムより、本物の人間の方がよろしいでしょう?」
「アイリス……」
なんつーか、あれだな。
まだまだ俺は甘く見られていたようだな。
「いいか、アイリス」
アイリスの手を離し、彼女の両腕をぐっと掴む。
「俺はな、モン娘もじゅーぶん守備範囲内だ」
「……はい?」
微笑みのまま、アイリスの頭上にはてなが浮かぶ。
「お前はそのままでいいんだよ。そのままで、最高に魅力的だ」
その証拠に、『偽装ED』を失った俺の下半身は愚直なまでに主張をしている。
人間は人間同士。獣人は獣人同士。モンスターはモンスター同士。
この世界において、そういう慣習が一般的であることはよくわかっている。
けどよ。いかんだろそれは。
ロマンがないじゃないか。
やっぱり男に生まれたからには、ロマンに生きないとな。
「マスター……」
「ま、人間になりたいってんなら止めたりしないけどな。好きにしろ。スライムだろうと人間だろうと、アイリスはアイリスだ。俺の大切な家族の一人なんだから」
アイリスは答えなかった。
ただ、空色の瞳には確かな感情が滲んでいる。
おそらくそれは、強い愛情だろう。
「さぁ、明日は早い。今日はもう寝ようぜ」
「ええ。そうですわね」
こうして俺達は、身を寄せ合ってベッドインする運びとなった。
この夜、何が起こったとか、どこまでやったとかは、俺達以外に誰一人として知る者はいない。




