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想定以上の規模

 人間、亜人を問わず、一見して数百の戦死者が村の道に野ざらしになっていた。

 直前まで激しい戦闘が行われていたことは想像に難くない。


「くそ……っ」


 カード村での戦いとは規模が違う。数百人の死者が出るって、相当にでかい戦いだぞ。


「マスター。隠れましょう」


 アイリスが俺の手を引いて建物の陰に隠れ、ある一方を指差した。


「あれを」


 そこにいたのは、亜人連合の軍人だ。二人の男が、こちらに向かって歩いてくることろだった。

 何かを喋っているようだ。俺は耳を澄ませる。


「いやあ、しかし。まさか敵を逃がしちまうとはな。あの神父の言うことには、殲滅できるって話だったのによ」


「やっぱ人間の言うことなんか信用しちゃダメだということだよ。オレ達に協力してくれるのも、なにか裏があってのことなんじゃないのかな」


「やっぱりお前もそう思うか。おかしいと思ったんだよな。敵軍のちっこい女いたの、憶えているか?」


「ああ。あのバケモノか。どでかい魔法を撃ちまくってたメスガキだよね?」


 間違くなくエレノアの事だろうな。メスガキって言うな。


「小耳にはさんだんだけどよ。あいつ、この村の生まれらしいぜ」


「なにぃ? 怪しいねそりゃ」


「ああ。下手すりゃ全部、仕込みだった可能性があるぜ」


「もしそうだったなら、たまんないね」


 そんなことを喋りながら、男達は俺達に気付かず通り過ぎていった。

 俺は止めていた息を吐く。


「逃げたって言ってたな」


 どうやらガウマン侯爵の軍は、アインアッカ村で戦闘をした後、どこかへ撤退したようだ。カード村に来ていないことを見ると、逆方向だな。王都の方角だ。

 となると、撤退して拠点にできそうな場所と言えば。


「リッバンループか」


 俺がサラを買った街だ。あそこはこのあたりじゃ一番大きな街だし、物資も豊富にあるだろう。


「アイリス。お前、念話灯持ってるか?」


「はい。私もアデライト先生からお借りしておりますわ」


「貸してくれ」


 アイリスはワンピースのスカートの中から念話灯を取り出す。なんてとこにしまってんだ。いいけどさ。


「どうぞ」


 俺はすぐさまルーチェに発信する。

 振動する念話灯。

 頼む、出てくれ。


『もしもし? ロートスくん?』


 よかった。


「おう」


『よかったぁ……大丈夫なの?』


「なんとかな。そっちはどうだ」


『うん。こっちも問題ないかな。今、リッバンループまで来たところ』


 いいね。ちょうどいいタイミングだったわけだ。


「リッバンループで、なにか変わったことは起きてないか? 例えば、軍が現れたとか」


 束の間、沈黙が訪れる。


『すごいねロートスくん。なんでわかったの?』


 この反応から察するに、あたりだな。


『王国中の将軍とか、有力な冒険者が、この街に集結してるみたいなの』


「え?」


 王国中の? そこまで大規模なのか。それは予想外だ。


『街は厳戒態勢だよ。防衛陣地も建設されてるし』


 王国はやる気だな。

 リッバンループを砦として、亜人連合を叩き潰す気なんだろう。


「わかった。俺もすぐにそっちに向かうつもりだ」


『うん。じゃあ、待ってるね』


「いや、ルーチェ達は先に王都に向かってくれ。できるだけ早くサラを学園に送り届けるのが最優先だ」


『えっと……でも』


「こっちにはアイリスがいるから大丈夫だ。それに、俺がいるとお前らの足手まといになりかねない。少しでも人数が少ない方が動きやすくもあるだろう」


 しばらく考えるような沈黙を挟み、ルーチェが吐息を漏らした。


『うん。わかった。ロートスくんの言う通りにする』


「サンキュな。サラを頼むぞ」


 そんなこんなで、通話は終了する。


「マスター。何かお考えが?」


「ああ。このままリッバンループへ一直線だ。将軍達が集まってるなら、好都合。あの人も来てるだろうしな」


 この村にいる両親のことも気になるが、今は後回しにしよう。

 戦争を止めるチャンスが、きているかもしれないんだからな。

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