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もう決めたぜ

 みんな同じだ。

 自らの大義のために戦っている。

 亜人達は、ただ切に自由と平等を求めているのだ。

 だから戦う。


 確かに戦争は褒められた行為ではない。だけども、自由を願う彼らの心に罪などあろうものか。

 帝国の思惑がどこにあるのかはわからんが、スキル至上主義の廃絶が目的だとすれば、亜人連合とはウィンウィンの関係にある。

 そうなれば、一概に帝国が悪だとも言い難い。


 うーむ。

 俺はいったい何を信じ、誰の味方をすればいいのか。

 頭がこんがらがってきた。


「俺が思うに」


 考えを整理しようと、俺はとにかく言葉を発した。


「確かなことが二つある」


「ほう? それはなんじゃ」


「ひとつは、戦争は絶対悪だということだ。どれだけ崇高な理念を持っていてようと、戦争を手段として使ってしまったら、一巻の終わりだよ」


「これ以上ない綺麗事じゃな」


「そうだな。けど、妥協の末に得た結果なんてのはどうせ満足のいくものじゃない。綺麗事を言葉で終わらせなきゃ、百点満点の現実が手に入るはずだぜ」


「夢物語にしか聞こえん。それができぬから、綺麗事だと言うんじゃ」


「そりゃおかしいな。自由のために命を賭けるのに、理想のためにはできないってのか?」


「おぬしのそれは理想とは言わん。空想と言うんじゃ」


「言葉遊びはいらねぇよ。要は、やるかやらないかだろ」


 老人は黙ってしまう。

 少なくともこの世界において、全ては行動で決まるんだ。運命を変えるのは、理屈や論理じゃなく行動だ。


「少年よ。おぬしは何が言いたいんじゃ」


「俺にもわかんねぇよ。でも、こうやって言葉にしてると、考えがまとまってくるんだ。自分からこれから何をするべきかってな」


「……おかしな奴じゃ」


 空のグラスに水を注いでやると、老人はそれを一気に飲み干した。


「それで、もうひとつは何じゃ」


「ああ。それはな」


 これだけは確信をもって言うことができる。


「ヘッケラー機関とマシなんとか五世は、マジでクソってことだ」


 人々の価値観を操作し、スキルなんて厄介なものを生み出したばかりに、社会の歪みを生み出してしまった。

 ヘッケラー機関が諸悪の根源と言っても過言ではないような気もする。


 老人はぽかんとしている。

 そりゃ分からないよな。


「よし」


 俺はひとり得心する。


「回復したら逃げるといい。俺はここいらでお暇するわ」


「なんじゃと? わしを置いていくというのか」


「やることがあるんでな。あんたにも帰る場所があるだろう。戦争なんかやめて、家でゆっくりしてろよ」


 俺はテントを出る。


「じゃあな」


 正直なところ、老人を放っていくのはどうかとも思うが、俺もゆっくりはしていられない。大の大人なんだから、大丈夫だろう。

 俺は決意を固める。


 ガウマン侯爵のところに行くぞ。

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