貴族の矜持、平民の意地
「甘ったれたことを言わないでくれるか。国家の危機なんだ。キミたちは平民かもしれないが、この国の最高学府で最優秀だと評価される者達だろう。その能力を、どうして国家の為に使わない?」
「それは……だからって戦争なんて……」
「そうですよ! ここに来たのだって、正規軍の支援って言われてたのに。実際に戦闘をするなんて聞いてないですよ」
「そうだそうだ!」
「戦争反対!」
上級生達の声が重なっていく。
伝令の兵もちょっと焦っている。矛先が侯爵の息子であるせいか、下手に口を挟めないのかな。
「そうか」
イキールは呆れたように溜息を吐く。
「ならばキミ達は後方で膝を抱え、虫のように縮まっていればいい。亜人どもは僕とリッターが引き受けよう」
力強く発したイキールに、上級生たちが静まり返る。予想外の返答だったんだろうな。
「いや……」
「それはちょっと、無理があるんじゃ……」
急に威勢を失う上級生。
「話にならないな。建設的な意見を出さず、口々に文句を言うばかりとは。これだから平民は愚かだというんだ」
失望の目を上級生らに向け、イキールはわざとらしく鼻を鳴らした。
「伝令」
「は、はっ」
「亜人共が侵攻してくるポイントまで案内を頼む。それくらいの目処はついているのだろう?」
「もちろんです。直ちに!」
戦闘を前にしても冷静を保つイキールに、俺はなんとなく感心した。
なんというか、流石は貴族ってやつなのかもな。
ヒーモの時も思ったが、いざという時の肝の据わり方が違う。このあたりは普段どんなことを考え、何のために努力をしているのかで差が出てくるのだろう。
貴族ってのはただ単に身分が高いだけの奴らかと思っていたが、貴族には貴族の矜持や信念があるんだろうな。
「待って」
それまでだんまりを決め込んでいたエレノアが、歩き出したイキールを呼び止めた。
「なんだ」
振り返ったイキールに、エレノアの強いまなざしが刺さる。
「私も行くわ」
エレノアの宣言に皆が驚く。隣のマホさんは、自身の白いおでこを押さえていた。
「流石に二人じゃ足りないでしょう?」
「キミがくれば足りると?」
「ええ」
エレノアは自信ありげな表情で頷く。
「私とマホさんが加わって、ちょうどいいってところかしら」
「はは。大した自信じゃないか」
ほんとそうだよ。
エレノアのやつ、どうしてあんな自信満々なんだろうな。
エルフに魔法を教わって、急激に力をつけたのだろうか。
それでも百人と戦うなんて、無謀にも程がある。なんとかエレノアとマホさんだけでも守りたいものだが。
「では行こうか。情けない上級生よりも、キミの方がよほど頼りになりそうだ」
そして、イキール、リッター、エレノア、マホさんの四人は、伝令に連れられて戦場に出発した。
これは本格的にやばいな。
なんとかしないと。




