かえりはこわい
『はーい。もしもし?』
通話開始。
ウィッキーが今の状況を先生に説明している。
その間に、シーラが俺の隣にやって来た。
「主様。先程の医療魔法なのですが……」
「ああ。どうかしたか?」
「一体どのような魔法をお使いに? 治癒を阻害する戦闘魔法による負傷は、いかなる医療魔法の効能も受け付けませんのに」
そんなこと言われてもな。
「よもや、伝説の医療魔法シューペルエイドをお使いになられたのでは?」
シューペルエイド? 知らない魔法だな。
「俺が使ったのはファーストエイドだよ。それしか使えないし」
「ファーストエイド? 初歩の初歩ではありませんか」
シーラは燃えるような紅い瞳をこれでもかというほど見開いていた。
「そうだよ」
「そんなまさか。一体どんなからくりを……」
からくりって言ってもな。普通に使っただけだし。スキルとかも使ってないしな。
転生者だから、なんか特典があるのかもしれない。それか、俺の体質に関係あるのか。
俺自身についてわからないことだらけだから、推測もできん。
そんなこんなでウィッキーと先生の通話が終わったようだ。
「先生はなんて言ってた?」
ウィッキーは念話灯を懐にしまいながら、
「先輩が言うには、カード村を占拠したのはガウマン侯爵の軍で間違いないらしいっす。あと、他の貴族は来ていないようっすね。だから、戦力はそれほど多くない。やり過ごすように言われたっす」
「やり過ごすったって、どうやって?」
「陽動作戦っすよ」
ウィッキーはしたり顔である。
「誰かがガウマン侯爵の軍を引きつける。その間に通過するんっす」
なるほど。
「しかし……だれが陽動を担当する? 下手すりゃ捕まる。最悪、戦いになることだって想定せにゃならん」
「先輩曰く、適任はアイリスらしいっす」
皆の視線が一斉にアイリスに向く。
「はい」
アイリスは相変わらずののほほんとした微笑みを浮かべていた。
「わかったぞ。アイリスが『千変』で目立つ姿になって、引きつけるってことか」
ウィッキーが首肯する。
それなら戦闘になってもモンスターとの戦いだと処理されるだろう。
いよいよアイリス万能説が濃厚になってきたな。いまさらか?
「かしこまりましたわ。このあたりに生息するモンスターに化けて、カード村を襲ってみましょう」
ぽんと両手を合わせるアイリス。物騒なことを穏やかに言うところがこいつらしい。
「アイリス。分かってると思うが」
「はい。人死にはなし、でございましょう?」
「ないすぅ!」
やはりアイリスはできた従者だ。とてもスライムとは思えないな。実のところ、もしかしたらスライムじゃないのかもしれない。知らんけど。
「作戦は決まったね?」
ルーチェが実行を促してくれる。
よし。
「アイリス。適当に相手をしたら切り上げるんだ。ガウマンの軍を撒いたら合流してくれ」
「お任せあれ、ですわ」
完璧な作戦だ。
この作戦なら、失敗することなどあり得ないだろう。
ああそうだ。
きっとそうに決まってる。




