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開戦してしまったやないか

 急いでサラのいるテントへ戻った時、すでに村中で激しい戦闘が行われていた。

 鎧を纏った王国軍の兵士達が、それぞれのスキルを駆使して亜人連合に襲いかかっている。亜人達は亜人達で、多彩な魔法を操り、王国軍に対抗していた。

 周囲には炎が燃え盛り、いくつもの流れ弾が飛んでくる。


「くそ。始まっちまったか……!」


「ロートスくん! こっち!」


 ルーチェが俺の手を引いてテントの中へ転がり込んだ。


「……うそだろ」


 ほんの数十分前まであった巨大なクリスタルがなくなっている。


「一足、遅かったみたいだね……」


 ルーチェがきゅっと唇を結ぶ。


「マクマホンのやつがサラを連れていったのか」


「もしくは、あの神父さんかも」


 アインアッカ村の神父か。可能性はあるな。


「どちらにしても、あんな大きなものを運び出すのは大変だし、目立つはずだよ。まだそんなに行ってないはず」


「なら追いかけよう。当てはあるのか?」


「まかせて」


 言うやいなや、ルーチェは目を閉じる。

 両手の指先を合わせ、俯く。

 祈っているような、あるいは瞑想でもしているような。そんな厳かな雰囲気を感じる。


「うん……たぶんだけど、サラちゃんは東に向かってるみたい」


「東?」


 カード村は王国の端っこにある村だ。そこから東に行くってなると。


「国境を越える気か?」


「だと思う。お隣のマッサ・ニャラブ共和国に逃げ込まれたら、サラちゃんを取り返すのは出来なくなるかも」


 それは看過できない。

 大切な従者を奪われるわけにはいかないんだ。


 とはいっても、国境を越えるには先方の許可がいるし、王国の許可もいる。そんなもの持っちゃいない俺達には、どうしようもなくなる。

 どうせマクマホンのやつは、そういうところも裏で手を回しているんだろうな。


「行くぞルーチェ!」


「うんっ!」


 とにかく走るしかない。


「急げばまだ間に合うよ!」


 ルーチェの言葉を信じるなら、希望はあるってことだ。

 だが、世の中そう上手くはいかない。


 テントを出た俺の前に立ち塞がったのは、一人の王国騎士であった。


「やはりまだ隠れていたか!」


 大柄な騎士だ。馬もでかい。

 兜の代わりに頭に布を巻いている。どことなく品のある男だ。


「我が名はガウマン侯爵家当主イヴァール・ガウマン! 汚れた種よ! ここで滅ぶがいい!」


 騎士が馬鹿でかい大剣を片手で振りかぶる。まるでナイフでも握っているかのように軽々と扱っている。

 まずい。避けないと即死コースだ。

 俺はルーチェを突き飛ばす。


 そして、大剣の一撃を一身に浴びることとなった。


「ルーチェ! 行くぞ!」


 真っ二つになった俺の肉体は一瞬にして元通りになり、即座にルーチェの手を取って駆け出す。


「なっ……どういうことだ! 確かな手ごたえがあったはずっ……!」


「うるせぇバーカ! お前の息子スライムに負けてやんのー!」


 俺は捨て台詞を吐き、呆気にとられる騎士から逃げおおせた。

 他の何を捨ててでも、マクマホンを追うぞ。

 サラを助けるために。

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