表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/1001

第1部完

「俺がこうして亜人同盟のところに向かっているのも、全部プロジェクトのシナリオ通りってことなのか」


 サラが突然いなくなって、亜人同盟の盟主になって、俺が戦争を止めると決意したことも、全部最初から決まっていたことだとしたらどうだ。

 運命に立ち向かっているつもりなだけで、実際それこそがヘッケラー機関によって定められた宿命なんだとしたら、俺はとんだ道化じゃないか。


 こんなバカげたことってあるかよ。

 俺がやろうとしていることや、今までやっていたことは、本当に俺自身の意志から生まれた行動なのだろうか。


 確信が持てない。

 気がつけば、足が止まっていた。


「ロートス?」


 数歩先のフェザールが振り返る。


「どうした。疲れたのか」


「ああ。そうだな。少し……疲れた」


 自分自身の信念が、揺らいでいるような気がした。

 そんなもん、最初からあったのかって感じだけど。


 フェザールはしばらく何も言わなかった。ただじっと俺を待っている。


「休憩にするか」


 だしぬけにそんなことを言い出すと、フェザールは道の脇にある切り株に腰をおろす。


「ほら、座ったらいい」


 そう言われてやっと、俺は近くの切り株に座ることにした。


「ロートス。キミがいま思い悩んでいることは、俺にとっては他人事だ。気にしなければならないこともないし、どうでもいいと斬り捨てたっていい」


 そりゃそうだ。


「でもだからこそ、その悩みを客観的に見ることができるんだ。自分のことってのは、実際よりも大きな問題に思えるものだ。それこそ、世界で一番悩んでいるのは自分だって信じてしまうくらいにね」


 そうかもしれない。


「キミには娘を救ってもらった恩があるから、あえて言わせてもらうよ。運命とか宿命とか、自分の背負っているものを自覚するのは大切だ。だけども、それに圧し潰されちゃいけない。そうなったら、マシーネン・ピストーレ五世の二の舞だ。諦念に満ち、狂気的な妄執に囚われてしまう」


「あいつは、運命に圧し潰されたのか?」


「圧し潰されまいと、必死に抵抗しているんだよ。運命を敵だと断じてしまったがゆえに」


 運命を敵視する、か。

 たしかに、今の俺はそうなっているのかもしれない。


「運命は生きていく上で切っても切れないものだ。味方につけるか、敵と見るかは、己の知恵一つでいくらでも変わっていく」


「だったら俺は、これからどうすればいい」


 それすらも、わからなくなっている。


「ロートス。キミは、何のために生きている?」


「それは……」


「何のためなら、死ぬ覚悟ができる?」


「決まってる」


 俺は、俺を慕ってくれるみんなのためなら、死んでもいいと思ってる。これまでもそうしてきた。転生者として、自分の命は軽いと思っているから。


「なら迷うことはない。それがキミの使命なんだから」


 使命。


 その言葉は、運命に翻弄される俺の心に深く突き刺さった。


「使命か」


 そうだな。


 やるべきことは、自分で決める。

 この命をどう使うかは、俺自身が決めることだ。


「よし」


 俺は立ち上がる。


「行くか」


 結局、前に進むしかないんだな。

 運命がどうだろうと、やることは変わらない。


 俺が生きるのは、勝つためだ。

 俺が死ぬのも、勝つためだ。


 何に勝つって?

 決まってる。


 自分自身の、弱い心に勝つんだよ。

 さっきみたいに足を止めてしまった、その臆病な心に打ち勝つんだ。


「戦争を止めて、サラを取り返す」


 それが今の、俺の目的だ。


「そんでさ、みんなで魔法学園に戻って、自由気ままなスローライフを送るんだ」


 そのためなら、今は別に目立ってもいい。

 いくらでも目立ってやる。


 もう腹は括った。

 ここからが、俺の本当の戦いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ