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すぐ他言する

 ホテル・コーキューの一室。


 こじんまりとした一人部屋にて、俺はみんなの訪問を受けていた。

 すなわちシーラ、アイリス、ウィッキー、アデライト先生である。

 一人部屋に五人もいると、狭いことこの上ない。けどそんなことが気にならなくなるくらい、この場の空気は重たいものになっていた。


「亜人同盟……っすか」


 獣人であり、サラの実の姉であるウィッキーは特に思うところがあるだろう。

 アデライト先生も同じく深刻な面持ちである。


「その件は学園の教師陣にも知らされました。戦争が始まれば、学園も無関係ではいられません。教師のみならず、学園生も戦争に駆り出されるでしょう」


「生徒も、ですか?」


「もちろん前線に送られるわけではありません。物資の輸送や後方連絡線の確保など、兵站に従事することになります。ですが……」


 うつむく先生に、俺は首をかしげた。


「一部の戦闘力に秀でた子達は、戦闘に参加することになるでしょう。たとえ一年生でも。そしてそれは、スペリオルクラスとマスタークラスから選出されるはずです」


 まじかよ。


「それじゃあ、エレノアも」


 先生は頷く。


 エレノアが戦争に行くだと? そんなのあってはならないだろ。

 そりゃ確かに優秀なのかもしれないけど、十三歳の女の子を戦争で戦わせるなんて正気の沙汰じゃない。


「何のための軍隊だよ。学生が戦争に駆り出されるなんて……ありえねぇだろ」


「ええ、ロートスさんの仰るとおり、あり得ない事態です。普通なら軍人でもない我々が戦わなければならない道理はありません」


「だったらなんで」


 アデライト先生は、しばしだんまりを決めてしまう。

 言葉を吟味しているようだった。


「ロートスさん。よく考えてみてください。いままで大人しく王国の支配に従ってきた亜人が、どうしていきなり同盟なんかを作り、戦争を仕掛けてきたと思いますか?」


「……堪忍袋の緒が切れたってことじゃないんですか」


「違います。いえ、もちろんそれもあるのでしょうが、それだけではありません。亜人たちが蜂起する、大きなきっかけがあるのです」


 なんだよ、そのきっかけってのは。

 なかなか答えの出ない俺に代わって、ウィッキーが口を開く。


「国家の介入っすね」


「国家の?」


「そうです。大陸の覇権を二分する二大国家。それが私達の住む王国と、西方のヴリキャス帝国です。亜人の蜂起は、間違いなくヴリキャス帝国の介入のせいでしょう。亜人をそそのかし、軍事的支援を行い、反乱を起こさせ、王国の国力を疲弊させる。それが狙いだと思います」


「そんなの……!」


 クソみたいなやり方だな。

 自分で戦わず、密かに裏で手を回して、王国に不満を持つ亜人に戦わせるなんて。


 そりゃ、スキルを持たない亜人を差別してきた王国も悪いのかもしれないが、そのせいで先生やエレノアが戦争に行かなければならないなんて納得できねぇ。


 しばし、部屋に沈黙が訪れる。 

 その沈黙を破ったのはウィッキーだった。


「仮に帝国の支援があったとして、ウチにはどうしても、サラが盟主なんかになるとは思えないんすよね」


 たしかにな。


「同感だ。そもそもあいつに、亜人同盟なんてものを結成する力も時間も伝手もないだろう」


「伝手ならあると思いますわ」


 意外なことにその言葉はアイリスの口から発せられた。

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