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途中ってどこまで

 エントランスに戻ると、アデライト先生とシーラが和やかに談笑をしていた。

 なに話してんだろ?


「主様とはどこまで?」


「……改めて聞かれると恥ずかしいわ」


「キスはしたのですか?」


「まぁ……」


「続きは?」


「ええっと……途中までなら、したような気がするかしら?」


「どうしてそんな曖昧なのです」


「もうっ。いいじゃない。根掘り葉掘り聞くようなことじゃないでしょう」


 なにガールズトークしてんだよ。

 そういえばこの二人は機関絡みで知り合いなんだった。そりゃガールズトークくらいするか。

 いやいや、今はそれどころじゃねぇよ。


 帰ってきた俺に気が付いた二人は、取り繕うように居住まいを正す。


「あ、あらロートスさん。意外と早かったですね」


「主様。軍の連中はなんと?」


 うむ。


「とりあえず事情は説明してきた。ギルドに協力させるのは難しそうだ。けど、代わりに王国軍が力を貸してくれるかもしれない」


「軍が?」


 先生とシーラは驚いた様子で顔を見合わせる。


「個人の事情で軍が動くのですか? 主様の社会でのお立場はどのようなものなのです」


「ただの学生だけど」


「なら、アルバレスの御子のお力、というわけですか」


 なるほど。それは大いにあるかもしれない。

 エルゲンバッハ大尉の運命にも干渉しちゃったか。


「ところで、他のみんなは?」


 この場にはアデライト先生とシーラしか見えない。


「皆さんなら、一度おうちに帰ると。しばらく空けたままでしたからね。ウィッキーとアイリスちゃんには、ロートスさんのお部屋を取りに行ってもらっています」


「部屋?」


「お屋敷が燃えてしまいましたでしょう。ですからホテル・コーキューの部屋を借りるようにと」


「ああ、そっか。助かります、先生」


「いえいえ」


 嬉しそうに顔を綻ばせる先生を、シーラは意味深な目で見つめる。


「変わりましたね、所長」


 シーラがそんなことを言う。


「そうかしら?」


「女の顔をしていますよ。以前は仕事一辺倒だったのに」


「だとすれば、それはロートスさんのせいですね」


 俺のせいかー。なら仕方ない。


「あとシーラ。いいかげん所長はやめて。私はもう機関を抜けたんだから」


「そうですね……そうでした、あたしも」


 そうだ。結果的にシーラも機関を裏切ることになったんだ。

 先生にウィッキーにシーラ。機関の裏切者が三人も生き延び、一堂に会することになるなんてな。

 すごい。


「ところで、俺は今からヒーモのとこに行こうと思うんですが」


「ヒーモ君のところとなると、貴族寮ですか」


「あいつは俺の屋敷に来てたみたいですから、その時にサラ達がいたかいなかったか教えてもらおうと思って」


 先生は頷く。


「分かりました。私もご一緒したいんですけど、なにぶん職務が溜まっていそうで」


 そうだ忘れてた。魔法学園の仕事をほっぽり出して俺についてきてくれてたんだもんな。これ以上は邪魔するわけにもいくまい。


「じゃあ、俺の方は用事が落ち着いたらホテルに行きますから。またその時に」


「ええ、それでは。また夜に」


 そう残して、アデライト先生は名残惜しそうに去っていった。


「人は変わるものですね」


 シーラが感慨深げに呟く。


「そんなに違うのか?」


「ええ。昔はもっと鬼気迫る雰囲気を纏っていました。鬼のアデライト、なんてあだ名までつけられていたのです」


「今の先生からは想像もできないな」


「恋は女を変えると聞きます。所長も例外ではないのでしょう」


「そんなもんか」


 良い変化であるなら、歓迎すべきだな。

 それはともかく。俺はシーラを伴って貴族寮へと向かうことと相成った。

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