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完全なる勝利

「邪魔やっ!」


 槍の薙ぎ払いが縦横無尽に軌道を描く。

 一振り一振りが致死の威力である攻撃を、メイド達は肉体によって防ぎ、弾き返していた。


 え、強いぞあの人ら。


 そこからは瞬きをする暇もない。

 メイドのうちの一人が、ルージュの懐に飛び込んだかと思うと、腰を落として真っすぐ拳撃を叩きこんだ。

 ルージュの顔が苦痛に歪む。


「効いてる?」


 続いて他のメイド達の拳足が、ルージュを袋叩きにしてしまう。


「このっ! 鬱陶しいんじゃボケがぁっ!」


 苦し紛れに槍を振り回すルージュだが、槍の攻撃はすべていなされ、かわされ、防がれていた。


「はっはっは。S級といっても所詮は下賤な冒険者。吾輩の敵ではないんだよ」


 ええ。こんなに強かったのか、ヒーモの奴。というか、ヒーモのメイド達。


「ヒーモ、どういうことだ。あいつのスキルは、女の攻撃を全て無効化するってのに」


「ああ、その情報はさっきクソガキから聞いたよ。だから、女は一人も連れてきていない」


 なんだって?


「じゃああのメイド達は……」


「みな男だよ」


「まじかよ」


「さらに言えば、彼らは人間じゃない。限りなく人間の女性に近い外見のモンスターである、フェイカーという種族の者達だ。その時々で男にでも女にでもなれる、不思議なモンスターだよ」


 あ、そうか。たしかヒーモのスキルは、テイム系だった。


「吾輩の『エビルドア・ファインダー』は、テイムしたモンスターに忠誠を誓わせることで、その能力を数百倍にまで引き上げる。今の彼らは、一体一体がドラゴンに匹敵する戦闘力を持っているんだ」


「すごいな」


 そんな強力なスキルを持っていながら、どうして捨てられた神殿で無様を晒していたのか。テイムしたモンスターがいなかったからか。

 イキールとの決闘もアイリスを代理に立てる意味があったのか疑問だ。だがこれはわかる。アイリスの擬態はフェイカーとやらよりも高度だったからだろう。


「なんやねんこいつら! つよつよやないか!」


 ルージュは押されている。というか、すでにボロボロであった。ビキニアーマーは見るも無残な状態であり、ルージュの全身には痛々しい打撃の痕がいくつも刻まれていた。


「さぁ、そろそろ仕上げといこうじゃないか。我がしもべたちよ。吾輩の友を傷つけた報いを受けさせろよ」


 その命令の直後、メイド達の同時攻撃が炸裂し、ルージュは盛大にふっ飛んで気を失った。

 勝った。完全なる勝利だ。

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