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転生者が生きる意味

　アデライト先生は顔を上げなかった。膝の上で両手を重ねて俯いたままだ。

「あなたは――」

　震える声。

「どこまでも、私の心を……虜にするのですね」

　彼女の白い手の上に、ひとつ、ふたつ、水滴が落ちる。

「先生」

　泣いているんですか？　という言葉をぐっと飲み込む。そんなことをわざわざ口にするのは野暮ってもんだろう。

　嗚咽を堪えるように、先生は大きく深呼吸をする。

「でも、やっぱり駄目です。ギルドを敵に回したら、機関と関わったりしたら……本当に死んでしまうかもしれない。私のせいでロートスさんが命を落としたりなんかしたら」

　先生は、膝の上でぎゅっと拳を握った。

「そんなことになるくらいなら、私は死を選びます」

　その声は悲壮なまでの決意に満ちていたように思う。

　いくら先生が強く聡明でも、強大な冒険者ギルドに狙われればどこまで対抗できるかわからない。一度や二度撃退できたとしても、いずれは追い詰められて終わりだろう。

　それは紛れもない事実。

　この世には、個人の努力や信念だけではどうにもできないことだってある。

　だけど。

「俺には、先生の言っていることがよくわかります」

　俺の言葉に、先生は何度か頷く。

「でしたら――」

「俺もまったく同じ気持ちだからですよ。先生がいなくなるくらいなら、俺が死んだ方が百万倍マシだ」

　先生の肩が震えた。

　そもそも俺は転生者。一度は死んだ身だ。

　この二度目の人生は、冗談みたいな理由で手に入れた、いわばボーナスステージみたいなもの。

　だったら、たった一回の人生を懸命に生きる人の為に、この命を使うべきだろう。

　サラもそうだ。エレノアもそうだ。アイリスだって、ウィッキーだって、ルーチェだって。もちろんアデライト先生だって。

「俺は、俺の人生に関わった人達の為に生きたいと思う。ついこの間までは自分の事しか考えていなかったってのに、こんな風に思うのは我ながら不思議すぎますけどね。まぁでも、これが今の俺の正直な気持ちです」

　俺を殺すのは俺だ。

　俺を生かすのも俺だ。

　自分の口からこんな言葉が出てくるのも妙なもんだ。しかもここまでスラスラと、まるで用意していたかのように。

「ロートスさん、私は……教師失格です。生徒であるあなたに、すべてを委ねてしまいたくなっている」

　もはや隠す気もなく、先生は嗚咽を漏らしている。

　こういうところはやっぱりまだ十九歳なんだな。魔法学園の教師といっても、俺からすればまだまだ子どもだ。

　一人で抱え込もうとしやがってさ。

　俺は立ち上がり、先生の涙を拭い、そっと抱きしめた。

「形だけのモンかもしれないけど、俺達は婚約者同士なんでしょう？　古今東西、妻を守らない夫がどこにいるってんです」

　はっと顔を上げた先生と、至近距離で目が合う。

「いいか、アデライト。俺を、恥知らずにしてくれるな」

　はっきり言いきった後、先生の碧い瞳に涙が溢れた。

　少女のように大声をあげて泣きじゃくり、俺にしがみついてくる。

　いいんだ、これで。

　立場的にも、出生的にも、甘えることを封じられ、我慢を強いられてきた人生だっただろう。

　だったら、俺が甘えさせてやればいいんだ。

　今ばかりは、転生者の度量を見せてやろうじゃないか。

　それはそれとして、アデライト先生の大きなおっぱいの感触は最＆高であった。